最新記事

アメリカ政治

トランプ弾劾で無罪評決、アメリカの民主主義が崩れ落ちる

Protecting Election Integrity

2020年2月13日(木)19時00分
シェリリン・アイフィル(弁護士、全米黒人地位向上協会法的弁護・教育基金会長)

上院で採択にかける法案を決めるのは多数派である共和党のミッチ・マコネル上院院内総務だ。そのデスクは「法案の墓場」として名高い。

不正な大統領選挙を防ぐカギとなるのが、SHIELD(恒久的民主主義のための有害な選挙干渉阻止)法だ。

同法は選挙戦に関する候補者と外国政府の情報交換を禁じ、外国政府などから援助の申し出を受けた際にはFBIと連邦選挙委員会に報告する義務を制定。投票手続きに関する欺瞞的慣行や虚偽情報を禁止し、オンラインの政治的広告に透明性を要求する。

大統領選こそが国民の意思表明

上院情報委員会は昨年、米選挙システムへの侵入や公正性阻害を狙う外国人・外国組織の活動を追った報告書を発表している。同委員会のメンバーは共和党議員であれ民主党議員であれ、SHIELD法を熱烈に支持すべきだ。

同法の採決は迅速に実現しなければならない。無罪評決が出た今、意を強くするトランプがさらなる外国の干渉を求めて裏でどんな行動に出るか、不和のタネをまき、偽情報を促進するために公的プラットフォームで何をするか分かったものではない。

マコネルには、SHIELD法を取り上げるよう迫る必要がある。これは不可能な目標ではない。彼は昨秋、州レベルの選挙制度改革とハッキングなどの不正行為対策のために多額の予算を投じる措置を採決にかけよとの圧力にひそかに屈した。要求より2億ドル少ない規模ではあったものの、同法案が成立したことで各州は計4億2500万ドルの予算を手にした。

マコネルが採決に動いたのは、その不作為に対する非難の声が高まり、彼をロシアの手先とみる「モスクワのミッチ」というあだ名がソーシャルメディアで広まった後だ。この事例はSHIELD法の成立に向けたモデルになる。

こうした事態は有権者の圧力なしでは実現しない。アメリカでは今や、選挙の正当性そのものが危険にさらされている。脅威の源は外国だけでなく、国内にも存在する。自由で公正な選挙は、各州の有権者と全ての上院議員の共通の関心事であるべきだ。さもなければ、この国の民主主義は名ばかりのものになる。

トランプの無罪支持に票を投じた上院議員たちは、大統領選こそが退陣の是非を決める適切な場になると主張した。「国民」には意思を表明する機会が与えられるべきだと彼らは言う。この主張が単なるペテンでないことを、彼らにぜひ証明してもらわなければならない。

選挙制度の公正性を口にするのは、大統領の弾劾裁判のときだけで、それが済んだら選挙制度の公正性のために戦う気などない──そんな上院議員がいるのなら、それは誰か、アメリカの有権者はすぐにでも知る必要がある。

©2020 The Slate Group

<本誌2020年2月18日号掲載>

【参考記事】嘘つき大統領トランプがアメリカの民主主義を打ち砕く
【参考記事】トランプの「無罪判決」を生んだFOXニュースの大罪

20200218issue_cover150.jpg
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2020年2月18日号(2月12日発売)は「新型肺炎:どこまで広がるのか」特集。「起きるべくして起きた」被害拡大を防ぐための「処方箋」は? 悲劇を繰り返す中国共産党、厳戒態勢下にある北京の現状、漢方・ワクチンという「対策」......総力レポート。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

為替円安、行き過ぎた動きには「ならすこと必要」=鈴

ワールド

中国、月の裏側へ無人探査機 土壌など回収へ世界初の

ビジネス

ドル152円割れ、4月の米雇用統計が市場予想下回る

ビジネス

米4月雇用17.5万人増、予想以上に鈍化 失業率3
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国の研究チームが開発した「第3のダイヤモンド合成法」の意義とは?

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    サプリ常用は要注意、健康的な睡眠を助ける「就寝前の適切な習慣」とは?

  • 4

    「TSMC創業者」モリス・チャンが、IBM工場の買収を視…

  • 5

    元ファーストレディの「知っている人」発言...メーガ…

  • 6

    「500万ドルの最新鋭レーダー」を爆破...劇的瞬間を…

  • 7

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 8

    映画『オッペンハイマー』考察:核をもたらしたのち…

  • 9

    中国のコモディティ爆買い続く、 最終兵器「人民元切…

  • 10

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 3

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる4択クイズ

  • 4

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 5

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 6

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 7

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 10

    メーガン妃の「限定いちごジャム」を贈られた「問題…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 10

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中