最新記事

野生動物

絶滅危惧種スマトラトラの「胎児」を密売? インドネシア、一方では人が襲われる事件も

2019年12月10日(火)17時40分
大塚智彦(PanAsiaNews)

スマトラトラの胎児や毛皮を密猟

一方、絶滅危惧種であることから希少価値が高いスマトラトラの密猟事件も起きている。12月7日にスマトラ島リアウ州プラワワン県トゥルック・ムランティ郡トゥルック・ビンジャイ村で地元警察と自然保護局担当者による合同捜査チームがインドネシア人住民3人を自然保護法違反容疑で逮捕した。

逮捕者はMY、SS、Eというイニシャルしか発表されておらず、同時に行われた家宅捜索ではプラスチック容器の中に保存液に漬けられた状態のスマトラトラの胎児4体を発見回収した。

さらに追跡調査で近くのパンカラン・レスン村でSS,TSというイニシャルの2人を逮捕、所持していたスマトラトラの成獣とみられる毛皮1頭分を押収した。胎児や毛皮は密売組織を通じて売られる予定だったとみられ、警察では密売ルートの解明を進めるとしている。

逮捕された5人は自然動物保護法違反容疑に問われており、起訴されて有罪となれば最高で禁固5年と1億ルピア(約77万円)の罰金刑が科されるという。

今回の密猟犯逮捕は地域住民からもたらされた情報などを基に内偵捜査を続けた結果という。自然環境保護局などでは「絶滅危惧種や希少種などの動物に対する密猟には厳しく対処していくのが現在のジョコ・ウィドド政権の方針だ」と厳正な対処と処分の方針を明らかにしている。

スマトラトラは国際自然保護連合(IUCN)によると現在スマトラ島で推定されている生息個体数は約400頭以下と極めて少ない。

スマトラ島では同じく絶滅の危機に瀕したスマトラゾウが毒殺されたり、象牙目当ての密猟者に殺されて頭部を切断されたりするなどの被害も出ている。

スマトラゾウのケースも生息区域の密林が開発や開墾、森林火災の影響を受けた結果、エサを求めて人里や農園、農地に姿を現し、農作物などへの被害を懸念する労働者や密猟者に殺されたもので、スマトラトラと同様の問題に直面しているといえる。

スマトラゾウやスマトラトラなどが人間を襲う一方で、密猟の被害に遭うなど人間社会との共生の難しさが浮き彫りとなっている。絶滅危惧種や希少種が数多く生息する"自然王国"のインドネシアだけにその対応にジョコ・ウィドド政権は頭を悩ませているのが実情だ。



20191217issue_cover150.jpg
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

12月17日号(12月10日発売)は「進撃のYahoo!」特集。ニュース産業の破壊者か救世主か――。メディアから記事を集めて配信し、無料のニュース帝国をつくり上げた「巨人」Yahoo!の功罪を問う。[PLUS]米メディア業界で今起きていること。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

神田財務官、介入有無コメントせず 過度な変動「看過

ワールド

タイ内閣改造、財務相に前証取会長 外相は辞任

ワールド

中国主席、仏・セルビア・ハンガリー訪問へ 5年ぶり

ビジネス

米エリオット、住友商事に数百億円規模の出資=BBG
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 3

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われた、史上初の「ドッグファイト」動画を米軍が公開

  • 4

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 5

    目の前の子の「お尻」に...! 真剣なバレエの練習中…

  • 6

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 7

    メーガン妃の「限定いちごジャム」を贈られた「問題…

  • 8

    19世紀イタリア、全世界を巻き込んだ論争『エドガル…

  • 9

    美女モデルの人魚姫風「貝殻ドレス」、お腹の部分に…

  • 10

    ロシア軍「Mi8ヘリコプター」にウクライナ軍HIMARSが…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 8

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 9

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 10

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 4

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 5

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中