最新記事

中国

中国の逆襲「レアメタル」カード

2019年5月31日(金)11時51分
遠藤誉(筑波大学名誉教授、理学博士)

「一帯一路」国際会議での習近平国家主席  Nicolas Asfour/REUTERS

中国は米国のハイテク及び軍事産業の基礎を成すレアメタルの対米輸出を禁止・規制する可能性を示唆しているが、そのシグナルは5月20日の習近平による「長征」の出発点・江西視察から始まっていた。その謎を解く。

習近平が指示した「新長征」の道

5月20日から22日にかけて、習近平国家主席は江西省かん州市于都県を視察した。そこは日中戦争の時に毛沢東が率いる「中央紅軍長征集結出発点」と言われている、いわゆる「長征」のスタート地点だ。習近平は先ず「中央紅軍長征出発記念碑」に献花し、「中央紅軍長征出発記念館」を視察した

この視察期間、習近平は「新長征の道」に関してスピーチをしている。

「長征」とは蒋介石率いる国民党軍に敗れた紅軍(中国共産党の軍隊)が、江西省瑞金から陝西省延安までの1万2500kmを徒歩で移動したことを指す。1934年から36年までの2年間を国民党と交戦しながら延安まで逃れていくのだが、1945年8月15日に日本が降伏したあとは中国共産党軍の方が優位に立ち、1949年10月1日には、遂に国民党軍を駆逐し、中国共産党による政権である「中華人民共和国」を誕生させる。

その間に毛沢東は部下の潘(はん)漢年をスパイとして日本の外務省の岩井英一と接触させ、国民党軍の軍事情報を日本側に与えて報酬(軍資金)を手にし、国民党軍の弱体化を図った。その真相を述べたのが拙著『毛沢東 日本軍と共謀した男』だ。だから筆者は江沢民以降の中国の指導者が、この「長征」は日本軍と戦うための「北上抗日」であると位置づけていることに対して「歴史のねつ造だ」と批判してきた。

習近平も2012年11月に中共中央総書記になり2013年3月に国家主席になって 以降、しばらくの間は「長征」を「抗日戦争のための勇敢な行動」と位置付けてきたので、その度に「歴史のねつ造だ」と反論してきた。ところが、トランプ大統領が誕生し、米中貿易摩擦が始まってからは、「抗日行動」とは位置づけなくなった。

新しい世代には、その世代なりの「苦難の闘い=長征」があり、中国共産党員は「初心」に戻らなければならないとして、最近では「新長征」という言葉を使うようになった。

この「新長征への道」は、まさに「米中摩擦」がどんなに厳しくとも、あの「長征」により結局は敵(=日本。本当は国民党)に勝ったように、今どんなに敵(=アメリカ)が不合理な外圧を掛けてきても、「中国人民は闘い抜き、勝利を手にするのだ」と呼びかけている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

バイデン氏「6歳児と戦っている」、大統領選巡りトラ

ワールド

焦点:認知症薬レカネマブ、米で普及進まず 医師に「

ワールド

ナワリヌイ氏殺害、プーチン氏は命じず 米当局分析=

ビジネス

アングル:最高値のビットコイン、環境負荷論争も白熱
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 3

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われた、史上初の「ドッグファイト」動画を米軍が公開

  • 4

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 5

    目の前の子の「お尻」に...! 真剣なバレエの練習中…

  • 6

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 7

    美女モデルの人魚姫風「貝殻ドレス」、お腹の部分に…

  • 8

    19世紀イタリア、全世界を巻き込んだ論争『エドガル…

  • 9

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 10

    ロシア軍「Mi8ヘリコプター」にウクライナ軍HIMARSが…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 6

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 9

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 10

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 3

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 4

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中