最新記事

日朝関係

金正恩「安倍は軍国主義」、日本の会談呼びかけにカウンター連打

2019年5月23日(木)13時30分
高英起(デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト) ※NKNewsより転載

日朝首脳会談の実現には北朝鮮側の決断も必要になる Shamil Zhumatov-REUTERS

<金正恩はどうやら「前提条件なし」で首脳会談に応じる気はなさそう>

北朝鮮の内閣などの機関紙・民主朝鮮は21日、日本の安倍政権が進める憲法改正の動きを非難する論評を掲載した。

論評は、「安倍政権が内外の強い抗議と糾弾にもかかわらず、憲法第9条を改正するためにそれほどやっきになっているのは憲法第9条が自分らの軍国主義復活、海外侵略野望の実現を妨げる障害物になっているからだ」と指摘。続けて「日本の軍国主義復活と再侵略は、時間の問題である」と主張した。

北朝鮮メディアは最近、この調子で対日非難を強めている。金正恩党委員長はメディア戦略で独自色を打ち出しており、こうした非難も彼の意を受けたものと解釈して差し支えない。

<参考記事:金正恩氏が自分の「ヘンな写真」をせっせと公開するのはナゼなのか

安倍晋三首相は今月6日、北朝鮮の金正恩氏との日朝首脳会談について、前提条件なしに実現を模索する考えを表明した。しかしその後も、北朝鮮メディアは連日、対日非難を繰り広げている。一部を引用すると、以下のような論調だ。

「日本が侵略の道に再び乗り出すのは時間の問題である」(労働新聞8日付)

「(日本の狙いは)独島(竹島)問題を国際化して領土紛争を起こし、20世紀のように朝鮮併呑と大陸侵略のための布石とすることにある」(朝鮮中央通信13日付)

「安倍勢力は『空母は保有できない』という法律的障害を除去し、軍事大国化の野望を合理化するために空母が攻撃型か、攻撃型でないかがその保有名分の基準になるというたわごとで世論を欺まんしている」(労働新聞16日付)

これを見ると、北朝鮮の側はどうも、「前提条件なし」で首脳会談に応じる気はなさそうだ。では、北朝鮮側の「前提条件」とは何か。

過去の論調を見る限り、それは大きく2つある。まず、第一に過去清算である。

日朝が国交正常化に向けて本格的な対話に入れば、必然的に過去清算について話し合われることになる。だが、安倍氏が言っているのは「前提条件なしで会う」というだけのことであり、その後どうするかについては言及していない。

金正恩氏とすれば、日本側が「前提条件なしに国交正常化交渉を始める」とでも言えばウェルカムなのだろうが、そのような展開はあり得ようはずもない。

次に北朝鮮が「前提条件」にするかもしれないのが、両国間での踏み込んだ形での安保対話だ。北朝鮮は、護衛艦「いずも」の空母化やステルス戦闘機の導入など、日本の軍備強化に神経を尖らせている。それはそうだろう。仮に米国との非核化対話が進展し、「虎の子」である核ミサイルを全廃するようなことになれば、北朝鮮の防衛力は一気に空洞化する。そのとき、強大となった自衛隊がすぐ隣に存在することは、脅威と言えば脅威である。

<参考記事:金正恩氏の「ポンコツ軍隊」は世界で3番目に弱い

安倍氏としては、「拉致問題の進展」という前提条件を外したことは政治的な勇断だったのかもしれないが、日朝首脳会談が実現するには、あちら側の勇断も必要になるということだ。

※当記事は「NKNews」からの転載記事です。

[筆者]
高英起(デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト)
北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。関西大学経済学部卒業。98年から99年まで中国吉林省延辺大学に留学し、北朝鮮難民「脱北者」の現状や、北朝鮮内部情報を発信するが、北朝鮮当局の逆鱗に触れ、二度の指名手配を受ける。雑誌、週刊誌への執筆、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記―』(新潮社)、『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』(宝島社)、『北朝鮮ポップスの世界』(共著、花伝社)など。近著に『脱北者が明かす北朝鮮』(宝島社)。

dailynklogo150.jpg



今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米金利先物、9月利下げ確率60%に小幅上昇 PCE

ビジネス

ドル34年ぶり157円台へ上昇、日銀の現状維持や米

ワールド

米中外相会談、ロシア支援に米懸念表明 マイナス要因

ビジネス

米PCE価格指数、3月前月比+0.3%・前年比+2
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された米女優、「過激衣装」写真での切り返しに称賛集まる

  • 3

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」──米国防総省

  • 4

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 5

    アカデミー賞監督の「英語スピーチ格差」を考える

  • 6

    大谷選手は被害者だけど「失格」...日本人の弱点は「…

  • 7

    今だからこそ観るべき? インバウンドで増えるK-POP…

  • 8

    19世紀イタリア、全世界を巻き込んだ論争『エドガル…

  • 9

    「性的」批判を一蹴 ローリング・ストーンズMVで妖…

  • 10

    「鳥山明ワールド」は永遠に...世界を魅了した漫画家…

  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 10

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 3

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈する動画...「吹き飛ばされた」と遺族(ロシア報道)

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 6

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中