最新記事

環境

下水管に住みつくモンスター「ファットバーグ(油脂の塊)」退治大作戦

What Is a Fatberg?

2019年4月23日(火)15時00分
イブ・ワトリング

下水管の洗浄作業は暑さと悪臭を伴う重労働だ(ロンドン中心部の下水管) Luke MacGregor-REUTERS 

<ロンドンやニューヨークの下水管を塞ぐ「ファットバーグ」の正体と最善の対策とは>

大都市の下水管でぶくぶく太る怪物ファットバーグ。その怪物はやがて体長250メートル、体重はザトウクジラ4頭分にも成長し、地上の世界に病原菌をまき散らす――。

ハリウッド映画の話かと思うかもしれないが、ちょっと違う。ファットバーグは世界の大都市で近年大きな問題になっている油脂の塊のこと。下水に流されたウエットティッシュや生理用品といったゴミに調理油などの油脂が絡み付いて固まり、下水管にこびりついて雪だるま式に大きくなっていく。

ファットバーグは「現代人の使い捨て文化を象徴する存在だ」と、ガーディアン紙のティム・アダムズ記者は語る。確かにファットバーグが大きな問題になってきたのは比較的最近だ。

最大の「犯人」とされる赤ちゃんのお尻拭きは1960年代から存在するが、現在のように大人向けやペット用製品まで登場したのは2000年代半ば。「水に流せる」とうたうものが多いが、大半は生分解性ではない。ファットバーグを切り裂いてみるとペンや義歯や腕時計が出てくることもある。

一方、こうした固形物に絡み付く油脂を下水に垂れ流す最大の犯人は飲食店だ。ロンドンの水道会社テムズ・ウォーターの調べによると、市内のファストフード店の9割が適切なグリストラップ(油水分離阻集器)を装備していなかった。

家庭から排出される油脂も大きな原因となっている。チャンネル4の18年の調べによると、ロンドンのファットバーグの9割は調理油だった(ファットバーグはクリスマスの時期に特に多くなるとの調査結果もある)。

それぞれの成分は柔らかくても、ファットバーグは岩のように固くなる。ビクトリア朝時代の配管が多く残るイギリスでは、この点が特に大きな脅威となっている。放置すればファットバーグは下水管を完全に塞ぎ、道路や家庭に下水があふれることになりかねない。ファットバーグには大量のリステリア菌や大腸菌が含まれるとの報告もあり、懸念は深まる一方だ。

このため各都市の水道当局は、毎年莫大な予算をかけてファットバーグを除去している。ニューヨーク市は4億6500万ドル以上、イギリスの都市も1億3000万ドル以上。その費用は通常、水道料金という形で利用者に転嫁される。

地方都市でも続々発見

だが、下水管で巨大化する怪物のイメージは、思いがけず大衆の好奇心をそそっている。17年にロンドンのホワイトチャペル地区で約130トンもの特大ファットバーグが発見されたときは、「ファティー・マックファットバーグ」という愛称が付けられたほどだ。

18年にロンドン美術館が巨大ファットバーグの一部を展示したときは、来場者数が急増した。さらに現在、ファットバーグを「主人公」に据えたミュージカルの企画も進んでいる。

だが、その除去作業は笑い事ではない。「コンクリートを砕く作業に近い」と、テムズ・ウォーターのマット・リマー廃棄物部長はBBCに語っている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

NY外為市場=ドルが158円台乗せ、日銀の現状維持

ビジネス

米国株式市場=上昇、大型グロース株高い

ビジネス

米PCE価格指数、インフレ率の緩やかな上昇示す 個

ワールド

「トランプ氏と喜んで討議」、バイデン氏が討論会に意
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された米女優、「過激衣装」写真での切り返しに称賛集まる

  • 3

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」──米国防総省

  • 4

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 5

    アカデミー賞監督の「英語スピーチ格差」を考える

  • 6

    大谷選手は被害者だけど「失格」...日本人の弱点は「…

  • 7

    今だからこそ観るべき? インバウンドで増えるK-POP…

  • 8

    19世紀イタリア、全世界を巻き込んだ論争『エドガル…

  • 9

    「性的」批判を一蹴 ローリング・ストーンズMVで妖…

  • 10

    「鳥山明ワールド」は永遠に...世界を魅了した漫画家…

  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 10

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 3

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈する動画...「吹き飛ばされた」と遺族(ロシア報道)

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 6

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中