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フィリピン

比ドゥテルテ大統領、メディアと対立激化 一族の資産を巡る疑惑報道に敵意むき出し

2019年4月16日(火)18時30分
大塚智彦(PanAsiaNews)

資産報告義務に違反の疑いも

フィリピンでは憲法や関連法により全ての公務員は本人、配偶者、子供を含めた資産、負債、事業収入を記載した報告書の提出が義務付けられており、大統領も例外ではないことからドゥテルテ大統領が法律に違反している可能性も指摘されている。

ドゥテルテ大統領に説明責任を迫っているセラノ元最高裁長官もかつて自身に関する資産報告書に記載漏れがあったことが原因で長官職を罷免されている。

こうした指摘に対してドゥテルテ大統領は「政治活動とは別に得た収入をあれこれ言われる筋合いはない」「政治家は選挙で落選したら収入の道がなくなるから、副業で収入源を確保することは大切なことである。何も国民の税金を使っている訳ではない」と反論、逆にメディア批判を強めているのだ。

メディアに対し罵詈雑言

同センターの調査報道や政権に批判的なメディアに対し、ドゥテルテ大統領は4月15日訪問先のダバオで、「仕返し」を表明するとともに「お前らの秘密を暴いてやるから待っていろ」などと口汚く罵って批判した。

「これまでの大統領としての仕事、業績を傷つけるような報道に悲しみを覚えている」としたうえでドゥテルテ大統領は「貧しい親元そして汚い場所で生まれた者たちよ、思いあがるなよ。秘密を暴いて仕返しをするからな」とドゥテルテ節全開の発言を行った。

就任当初からドゥテルテ大統領が進める麻薬関連犯罪捜査で超法規的殺人という強硬手段が著しく人権を侵害しているとしてドゥテルテ政権を一貫して批判しているネットメディアの「ラップラー」に対してもドゥテルテ政権は厳しい姿勢で臨んでいる。

「ラップラー」の最高経営責任者のマリア・レッサ編集長が過去の記事に関する名誉棄損容疑で逮捕されたり、会社に税務上問題があるとして捜査を受けたりしており、ドゥテルテ大統領による「気に入らないメディア」への妨害、弾圧はこのところ顕著になっている。

5月13日のに予定されている中間選挙の投票に向けて、ドゥテルテ大統領とメディアによる攻防はさらなる激化が予想される事態となっている。


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大塚智彦(ジャーナリスト)
PanAsiaNews所属 1957年東京生まれ。国学院大学文学部史学科卒、米ジョージワシントン大学大学院宗教学科中退。1984年毎日新聞社入社、長野支局、東京外信部防衛庁担当などを経てジャカルタ支局長。2000年産経新聞社入社、シンガポール支局長、社会部防衛省担当などを歴任。2014年からPan Asia News所属のフリーランス記者として東南アジアをフィールドに取材活動を続ける。著書に「アジアの中の自衛隊」(東洋経済新報社)、「民主国家への道、ジャカルタ報道2000日」(小学館)など

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