最新記事

テクノロジー

ディープラーニングの進化で、AI時代の未来は中国の手中に

GO FOR BROKE

2019年2月8日(金)17時00分
ビル・パウエル

ディープラーニングでAIの応用範囲は大きく広がる ILLUSTRATION BY ANDRIY ONUFRIYENKO/GETTY IMAGES

<囲碁でAIに敗れたショックが中国テクノロジー界の快進撃に火を付けた>

かつてグーグルの中国部門を率い、現在は北京の著名なベンチャーキャピタリストである李開復(リー・カイフー)は、その光景をよく覚えている。2年前の春、李はオフィスでテレビにクギ付けになっていた。映し出されていたのは、黒縁の眼鏡を掛けた19歳のオタクっぽい青年だった。

彼の名は柯潔(コー・チエ)。李は彼が「人類の最後の戦い」に挑むヒーローには見えなかったと、冗談めかして言う。戦いの相手は「アルファ碁」。グーグル傘下の英ディープマインド社が開発した人工知能(AI)の囲碁プログラムだ。

柯は世界最古のボードゲームとされる囲碁の神童で、10歳でプロデビューし、アルファ碁と対局するまで世界最強の棋士とみられていた。だが、アルファ碁には3連敗を喫した。

李に言わせれば、これは中国にとっての「スプートニク・ショック」だった。57年にソ連が人類初の人工衛星打ち上げを成功させ、アメリカに大きな衝撃が走った一件だ。これがNASAの設立につながり、当時のジョン・F・ケネディ大統領は60年代末までに人類を月に到達させると宣言。こうして宇宙開発競争が始まった。

欧米に追い付く方法を知る国

中国のテクノロジー関係者にも、柯がアルファ碁に敗れたことは衝撃だった。碁のプログラムが欧米で開発されたのも「挑戦であり刺激」だったと李は言う。今度はAI競争に火が付いた。

それから2年、中国の政府も民間企業もこの分野に巨額の投資を行っている。17年末には、中国のベンチャーキャピタルが世界のAI関連投資の48%を占めた。

中国政府の目標は30年までに、AIの理論、技術、アプリケーションの牽引役となることだ。政府の資金がたとえ有効活用されなくても、華為技術(ファーウェイ・テクノロジーズ)やアリババ・ドットコム、百度(バイドゥ)といったテクノロジー大手や個人投資家が力を入れており、今後は目覚ましい成長を遂げるだろう。

大学や民間のコンピューター専門家は長年にわたりAIの研究を続けてきたが、歩みは遅い。IBMのスーパーコンピューター「ディープブルー」は97年、チェス世界チャンピオンのガルリ・カスパロフに勝利して世界を驚かせたが、そのプログラムに「実用的なアプリはほとんどなかった」と、80年代に米カーネギー・メロン大学でAIを学んだ李は言う。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米貿易赤字、3月は0.1%減の694億ドル 輸出入

ワールド

ウクライナ戦争すぐに終結の公算小さい=米国家情報長

ワールド

ロシア、北朝鮮に石油精製品を輸出 制裁違反の規模か

ワールド

OPECプラス、減産延長の可能性 正式協議はまだ=
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国の研究チームが開発した「第3のダイヤモンド合成法」の意義とは?

  • 2

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロシア空軍基地の被害規模

  • 3

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 4

    「500万ドルの最新鋭レーダー」を爆破...劇的瞬間を…

  • 5

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 6

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 7

    「複雑で自由で多様」...日本アニメがこれからも世界…

  • 8

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 9

    中国のコモディティ爆買い続く、 最終兵器「人民元切…

  • 10

    「みっともない!」 中東を訪問したプーチンとドイツ…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 5

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 6

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 7

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 8

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 9

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 10

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 10

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中