最新記事

イギリス

ブレグジットめぐり英企業「議会は党派対立棚上げを」 合意なき離脱の混乱へ対策室設置も

2019年1月29日(火)17時07分

シチュエーションルーム

メイ首相は、離脱協定案が歴史的大差で否決されてからちょうど2週間にあたる29日に予定されている一連の議会採決を利用して、与党保守党内で支持が得られる合意をまとめようとしている。

だが政治家の間ではブレグジットを巡る駆け引きが続いており、今後の展開についてさまざまな予測を立て始めた英大手企業もある。英国は過去20年間、世界最大級の対外投資先だった。

EUのメンバーシップを巡る危機が最高潮に達する中、起こり得る結末としては、合意なき離脱、土壇場での合意、離脱延期、解散総選挙、それにブレグジットを決めた2016年の国民投票のやり直しがある。

「われわれが接触している企業の多くは、50条の延長を願っている」

コンサルティング会社KPMGのブレグジット責任者ジェームズ・スチュワート氏はこう話す。50条とは、離脱交渉の期間を2年と定めたEU基本条約(リスボン条約)の条文を指す。

「一部の企業は遅れていたが、現在ではほぼ全ての大手企業がブレグジット準備を始めている。ただ、離脱なき合意が現実になる場合、いつ対応策を実行に移すかの計画には企業間で幅がある」

「最も情報量の多い顧客ですら、何が起きても不思議はないと考えている」とスチュワート氏は言い、「企業が考えているのは、製品をある地点から別の地点にどう輸送するかや、市場アクセスの確保、そして4月に向けてシチュエーションルーム要員を十分に配置することなどだ。ブレグジットの結末を予測することは、ドッグレースの結果を予測することに少し似ている。安全な賭けなどない」と付け加えた。

ブレグジット対応の困難さは、どの産業セクターにとっても共通で、困惑させられると同時に高コストなものだ。

英製薬大手アストラゼネカは医薬品の備蓄を増やすとしており、独高級自動車メーカーのBMWは、ドーバー海峡の英仏両側にトラックの駐車エリアや倉庫を確保しようとしている。P&Oでは、所有する船舶をEUの税制にとどめるため、キプロスに登録を移すとしている。

英議会は29日、メイ首相の離脱代替案に加え、前出の「50条」の交渉期間延長を求めることで離脱を延期することを含む、他の議員が提出した修正案などを審議・採択する見通し。

著名なEU離脱派の保守党議員ジェイコブ・リースモグ氏は、メイ氏の離脱案は、アイルランドとの国境管理を巡るバックストップを削除するか無効化すれば、保守党内のEU懐疑派議員にも受け入れられる可能性があると発言している。

バックストップとは、他に何の合意も得られなかった場合に、アイルランドと英領北アイルランドとの国境管理の厳格化を防ぐもので、メイ氏の離脱案の中でも最も議論を呼んだ部分だ。

(翻訳:山口香子、編集:伊藤典子)

Guy Faulconbridge

[ロンドン 28日 ロイター]


トムソンロイター・ジャパン

Copyright (C) 2018トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます

20240514issue_cover150.jpg
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2024年5月14日号(5月8日発売)は「岸田のホンネ」特集。金正恩会談、台湾有事、円安・インフレの出口……岸田文雄首相が本誌単独取材で語った「転換点の日本」

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米、イスラエルへの兵器輸送一部停止か ハマスとの戦

ビジネス

FRB、年内は金利据え置きの可能性=ミネアポリス連

ワールド

ロシアとウクライナの化学兵器使用、立証されていない

ワールド

反ユダヤ主義の高まりを警告、バイデン氏 ホロコース
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:岸田のホンネ
特集:岸田のホンネ
2024年5月14日号(5/ 8発売)

金正恩会談、台湾有事、円安・インフレの出口......岸田首相がニューズウィーク単独取材で語った「次の日本」

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「真の脅威」は中国の大きすぎる「その野心」

  • 2

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国の研究チームが開発した「第3のダイヤモンド合成法」の意義とは?

  • 3

    外国人労働者がいないと経済が回らないのだが...... 今も厳しい差別、雇用許可制20年目の韓国

  • 4

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 5

    単独取材:岸田首相、本誌に語ったGDP「4位転落」日…

  • 6

    翼が生えた「天使」のような形に、トゲだらけの体表.…

  • 7

    中国軍機がオーストラリア軍ヘリを妨害 豪国防相「…

  • 8

    デモを強制排除した米名門コロンビア大学の無分別...…

  • 9

    ハマス、ガザ休戦案受け入れ イスラエルはラファ攻…

  • 10

    プーチン大統領就任式、EU加盟国の大半が欠席へ …

  • 1

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 2

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロシア空軍基地の被害規模

  • 3

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国の研究チームが開発した「第3のダイヤモンド合成法」の意義とは?

  • 4

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミ…

  • 5

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 6

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 7

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 8

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 9

    外国人労働者がいないと経済が回らないのだが......…

  • 10

    「500万ドルの最新鋭レーダー」を爆破...劇的瞬間を…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

  • 10

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中