最新記事

アメリカ経済

長引く米国の政府閉鎖、景気への悪影響が懸念されはじめた

2019年1月23日(水)17時00分
安井明彦(みずほ総合研究所欧米調査部長)

米運輸保安局が閉鎖になり、人手が足りない空港のセキュリティーチェックは長蛇の列(ジョージア州アトランタ、2019年1月18日) Elijah Nouvelage-REUTERS

米国の政府閉鎖が、史上最長を更新している。当初はそれほど心配されていなかった経済への悪影響にも、さすがに警戒感が高まってきた。気掛かりなのは、閉鎖の原因となった「国境の壁」をめぐるドナルド・トランプ大統領と米議会との対立が、夏以降に必要となる「債務上限の引き上げ」等、より重大な局面での混乱を予感させることだ。

当初はそれほど心配されていなかった

2018年12月22日に始まった米政府機関の一部閉鎖が、ついに一カ月を超えた。これまで最長だった1995~96年の21日間が過ぎ、未体験の領域に踏み込むにつれて、政府閉鎖が経済に与える悪影響が警戒され始めた。

3つの理由から、政府閉鎖が始まった段階では、それほど経済への悪影響は心配されていなかった。

第1に、政府機関の閉鎖は、予算が成立するまでの一時的な出来事である。もちろん、政府による支出が減る閉鎖期間中には、経済成長率に下押し圧力が働く。しかし、閉鎖期間中に使われなかった予算が、そのままなくなってしまうわけではない。政府閉鎖が解除された暁には、それまで使われていなかった予算が一気に使われ始める。通年での予算額が変わらないとすれば、閉鎖期間中に押し下げられていた成長率は、閉鎖解除後に同じだけ押し上げられるはずである。

第2に、政府閉鎖の対象は、一部の政府機関に限定されている。既に6つの省では予算が成立しており、閉鎖対象は9つの省に限られる。規模が大きい国防総省の予算が成立していることもあり、予算規模に換算した場合には、閉鎖対象は全体の2~3割に止まる。政府閉鎖の長さが同じだとすれば、全ての省の予算が成立しなかった2013年の政府閉鎖等と比較して、それだけ経済への影響は小さくなる計算だ。

第3に、これまでの経験でも、政府閉鎖が著しく景気を悪化させた例はない。一時的に成長率は低下しても、景気拡大の方向性は変わらなかった。これまで最長だった1995~96年の政府閉鎖は、米国経済が絶好調だった時期と重なる。16日間続いた2013年の政府閉鎖でも、景気の拡大は揺らがなかった。

揺らぎ始めた楽観論

ところが、閉鎖期間の長期化によって、こうした楽観的な見方が揺らぎ始めた。
 
いくら一時的といっても、閉鎖期間が長引けば、蓄積される悪影響は大きくなる。トランプ政権は、今回の政府閉鎖が四半期の成長率を押し下げる度合いを、一週間ごとに0.1%強と試算している。短期間で済めばさほどでもないが、これが一カ月続けば、成長率は0.5%程度押し下げられる。仮に3月末まで続けば、第1四半期の成長率が1.5%押し下げられる計算だ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

再送米PCE価格指数、3月前月比+0.3%・前年比

ワールド

「トランプ氏と喜んで討議」、バイデン氏が討論会に意

ワールド

国際刑事裁の決定、イスラエルの行動に影響せず=ネタ

ワールド

ロシア中銀、金利16%に据え置き インフレ率は年内
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された米女優、「過激衣装」写真での切り返しに称賛集まる

  • 3

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」──米国防総省

  • 4

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 5

    アカデミー賞監督の「英語スピーチ格差」を考える

  • 6

    大谷選手は被害者だけど「失格」...日本人の弱点は「…

  • 7

    今だからこそ観るべき? インバウンドで増えるK-POP…

  • 8

    19世紀イタリア、全世界を巻き込んだ論争『エドガル…

  • 9

    「性的」批判を一蹴 ローリング・ストーンズMVで妖…

  • 10

    「鳥山明ワールド」は永遠に...世界を魅了した漫画家…

  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 10

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 3

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈する動画...「吹き飛ばされた」と遺族(ロシア報道)

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 6

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中