最新記事

アメリカ経済

長引く米国の政府閉鎖、景気への悪影響が懸念されはじめた

2019年1月23日(水)17時00分
安井明彦(みずほ総合研究所欧米調査部長)

また、一部の閉鎖に止まるとはいっても、その期間が長引くのであれば、政府による一時的な支出の減少だけでなく、間接的な影響の広がりが軽視できなくなる。

例えば、個人消費への影響である。今は前年度予算の残りで続けられている低所得者への補助金の支給が滞れば、個人消費への打撃となる。閉鎖期間中の政府職員の給与は閉鎖解除後に補てんされる予定だが、政府機関の清掃等を担当する下請け業者の従業員については、閉鎖で失われた給与を取り戻す手立てがない。1月末から始まる予定の確定申告に伴う税還付が、順調に実施されるかどうかも不透明だ。

ビジネスへの影響も出始めた。証券取引委員会(SEC)が閉鎖対象であるために、企業の新規株式公開(IPO)の手続きが滞っている。食品医薬局(FDA)の予算が枯渇するなかで、新たな処方薬の承認も遅れそうな状況だ。政府職員の出張減等を懸念するデルタ航空のように、収益悪化の可能性を明らかにする企業も出てきた。

さらに、タイミングも問題である。過去の政府閉鎖が景気の拡大を阻害しなかったのは、そもそもの景気が強かったことに助けられた面がある。これに対して現在は、中国経済の減速や貿易摩擦の深刻化が懸念される等、政府閉鎖以外の不安材料が山積している。仮に政府閉鎖だけであれば耐えられたとしても、他の要因が重なった際の試練は大きくなる。

税還付を担当する職員も休み

トランプ政権は、予算が成立していない省の職員を無給で働くよう呼び戻す等、業務遅延の悪影響の顕在化を抑える手立てを講じている。しかし、税還付を担当する内国歳入庁(IRS)では、無給での出勤を拒否する職員が多いと伝えられる等、こうした対応には限界が露呈している。

注意する必要があるのは、消費者や企業への心理的な影響である。実際の悪影響が生じていない段階でも、今後の見通しに対する警戒感が高まれば、消費者や企業の活動は萎縮する。個人消費や企業の投資が冷え込むことで、政府閉鎖の悪影響が増幅されかねない。ミシガン大学が発表した1月の消費者信頼感指数(速報値)は前月から急低下しており、気になる兆候が確認できる。

心理的な影響という点では、今回の政府閉鎖が、こらから訪れるさらなる混乱の予兆と受け止められる可能性が気掛かりだ。これから夏にかけて、米国には対処しなければならない重い課題が待ち受けている。政府閉鎖を招いた大統領と議会の対立が再現された場合には、米国経済に深刻な影響が及びかねない。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米、イスラエルへの兵器輸送一部停止か ハマスとの戦

ビジネス

FRB、年内は金利据え置きの可能性=ミネアポリス連

ワールド

ロシアとウクライナの化学兵器使用、立証されていない

ワールド

反ユダヤ主義の高まりを警告、バイデン氏 ホロコース
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:岸田のホンネ
特集:岸田のホンネ
2024年5月14日号(5/ 8発売)

金正恩会談、台湾有事、円安・インフレの出口......岸田首相がニューズウィーク単独取材で語った「次の日本」

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「真の脅威」は中国の大きすぎる「その野心」

  • 2

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国の研究チームが開発した「第3のダイヤモンド合成法」の意義とは?

  • 3

    外国人労働者がいないと経済が回らないのだが...... 今も厳しい差別、雇用許可制20年目の韓国

  • 4

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 5

    単独取材:岸田首相、本誌に語ったGDP「4位転落」日…

  • 6

    翼が生えた「天使」のような形に、トゲだらけの体表.…

  • 7

    中国軍機がオーストラリア軍ヘリを妨害 豪国防相「…

  • 8

    デモを強制排除した米名門コロンビア大学の無分別...…

  • 9

    ハマス、ガザ休戦案受け入れ イスラエルはラファ攻…

  • 10

    プーチン大統領就任式、EU加盟国の大半が欠席へ …

  • 1

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 2

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロシア空軍基地の被害規模

  • 3

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国の研究チームが開発した「第3のダイヤモンド合成法」の意義とは?

  • 4

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミ…

  • 5

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 6

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 7

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 8

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 9

    外国人労働者がいないと経済が回らないのだが......…

  • 10

    「500万ドルの最新鋭レーダー」を爆破...劇的瞬間を…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

  • 10

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中