最新記事

韓国

慰安婦合意を捨て去った、韓国「馬耳東風」の論理

2018年11月30日(金)15時40分
浅川新介(ジャーナリスト)

慰安婦問題はいつまで日韓の間でくすぶり続ける?(17年5月、ソウル) Kim Kyung Hoon-REUTERS

<文在寅政権が「和解・癒やし財団」の解散を発表――強気の背景には世界的な人権重視のトレンドがある>

日韓関係はこうもこじれるものなのか。韓国政府が21日、15年の日韓慰安婦合意の根幹となる「和解・癒やし財団」の解散を発表した。合意に基づき、日本政府がこの財団に10億円を拠出。生存する47人のうち34人が1人当たり1億ウォン(約1000万円)を受け取っている。

だが、合意と財団は慰安婦支援団体をはじめ少なからぬ韓国世論の反発を受けてきた。「朴槿恵(パク・クネ)前政権が日本と政治的な合意を結んだ」というのがその理由だ。文在寅(ムン・ジェイン)現政権はこれを受け、「法的拘束力がない政治合意で、公権力の行使とみるのは難しい」と発表。理事の大半が昨年末で辞任し、財団の実質的な機能は停止していた。

さらに韓国では10月末、大法院(最高裁判所)が徴用工問題に対し、「個人請求権はある」との判決を出し、日本の新日鐵住金に賠償を命令。65年の請求権協定で定められていない「個人請求権」を韓国司法が認めたことで、国際法違反という反発が日本側で強く起きた。そして今回の財団解散だ。安倍晋三首相も「国際約束が守られないのであれば、国と国との関係が成り立たなくなってしまう」と、強い口調で反発している。

しかし、韓国には馬耳東風だろう。「(財団解散について)もともと韓国国民は無関心な上に、文政権が慰安婦合意に否定的な声明を発表した延長線上にあると認識しているので、大きな問題になっていない」と、ある韓国の全国紙記者は言う。「日本側の反発も大したことがないと、大統領府や政府が思っている可能性はある」

日本からすれば、韓国側の態度は「日本軽視」に見える。だが「大統領府のスタッフはむしろ逆に『日本に対し、われわれはよくやっている』と思っている」(日本の韓国政治研究者)。植民地支配の過去の清算をきちんと行わない日本には現在のような対応でいい、ということだ。

中国や北朝鮮も参戦か?

日本では慰安婦や徴用工の存在そのもの、そして「被害」の定義をめぐって論争がある。だが、韓国にとっては「戦争・植民地による人道的被害」というのが共通認識であり、道徳性や正当性から見て日本側が一方的に悪い、と今も考えられている。

徴用工問題について、日本側は日韓基本条約に定められた手続きによる2国間紛争解決、さらには国際司法裁判所(ICJ)への提訴も考えている。慰安婦問題は当時の状況からして同条約には言及・明記されていないが、日本政府は「国際法・合意違反」を打ち出し、世界に韓国の非を訴えるほかない。だが、それがどこまで通じるか。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

台湾の頼次期総統、20日の就任式で中国との「現状維

ワールド

イスラエル軍、ガザ北部で攻勢強化 米大統領補佐官が

ワールド

アングル:トランプ氏陣営、本選敗北に備え「異議申し

ビジネス

日本製鉄副会長が来週訪米、USスチール買収で働きか
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバいのか!?

  • 3

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイジェリアの少年」...経験した偏見と苦難、そして現在の夢

  • 4

    「まるでロイヤルツアー」...メーガン妃とヘンリー王…

  • 5

    時速160キロで走行...制御失ったテスラが宙を舞い、4…

  • 6

    チャールズ英国王、自身の「不気味」な肖像画を見た…

  • 7

    英供与車両から巨大な黒煙...ロシアのドローンが「貴…

  • 8

    日本とはどこが違う? 韓国ドラマのオリジナルサウン…

  • 9

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 10

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 1

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 2

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 3

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 4

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 5

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 6

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 7

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 8

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 9

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 10

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 4

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 5

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 6

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中