最新記事

映画

「作り物」のクイーン賛歌は、結局本物にはかなわない

Bohemian Rhapsody May Not Rock You

2018年11月16日(金)18時00分
ジェフリー・ブルーマー

クイーン役の4人は息が合っていて、本物のブライアン・メイが「完全になり切っている」と絶賛したが (c)2018 TWENTIETH CENTURY FOX FILM CORPORATION. ALL RIGHTS RESERVED

<伝説のロックバンド、クイーンの物語を俳優たちが熱演したが、フレディ・マーキュリーの神格化が過剰>

セックスを終えたばかりの高揚感(または脱力感)を漂わせたフレディ・マーキュリーが無理な姿勢でピアノを弾けば、聞こえてくるのは名曲「ボヘミアン・ラプソディ」の冒頭部分。フレディのスタジオ入りが遅れていら立つバンド仲間が足を踏み鳴らすリズムは、忘れもしない「ウィ・ウィル・ロック・ユー」の強烈なビート。

題名を見れば分かるとおり、『ボヘミアン・ラプソディ』は伝説のバンド、クイーンの伝記映画だ。当然のことながら、どのシーンからも彼らの数あるヒット曲がにおい立つ。この手の映画の常套手段と言えばそれまでだが、悪くはない。それに徹していれば、まずは無難な作品になれただろう。

しかし『ボヘミアン・ラプソディ』は単なるクイーン賛歌では満足せず、こともあろうにフレディを神格化しようと試みた。それが間違い。だから難産だった(監督のブライアン・シンガーは何らかの事情で途中降板を強いられている)。

物語の展開は速い。1985年の伝説の飢餓救済コンサート「ライブ・エイド」で、いよいよ彼らの出番というシーンで始まるのは当然として、すぐに時代は1970年代初頭へ飛ぶ。若きフレディ(ラミ・マレック)がブライアン・メイ(グウィリム・リー)とロジャー・テイラー(ベン・ハーディ)に出会い、バンドを結成し、一気にスターダムへ駆け上る。

このへんのテンポはいいし、役者たちの息も合っている。主役のマレックも頑張っている(フレディの歯のかみ合わせをまねるために「付け歯」をして練習したとか)。とりわけフレディが年を重ねてマレックの実年齢(37歳)に近づき、あの特徴的な外見になってからは文字どおり迫真の演技。「ライブ・エイド」での歌唱シーンは感動ものだ。

献身愛もどこか空々しく

しかし盛大なクイーン賛歌が終わり、フレディの私生活が前面に出てくると急に歯切れが悪くなる。この点については公開前から批判が上がっていたのだが、シンガー監督はフレディを神格化したいあまり、逆に冒?してしまった感がある。

フレディの同性愛に触れないという選択もあり得ただろう。しかし監督はそうしなかった。作中のフレディは初めから若い男たちに色目を使っている。しかし、中心的に描かれるのは女性の伴侶メアリー・オースティン(ルーシー・ボイントン)との関係だ。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

ジョージア「スパイ法案」、大統領が拒否権発動

ビジネス

必要なら利上げも、インフレは今年改善なく=ボウマン

ワールド

台湾の頼次期総統、20日の就任式で中国との「現状維

ワールド

イスラエル軍、ガザ北部で攻勢強化 米大統領補佐官が
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバいのか!?

  • 3

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイジェリアの少年」...経験した偏見と苦難、そして現在の夢

  • 4

    「まるでロイヤルツアー」...メーガン妃とヘンリー王…

  • 5

    時速160キロで走行...制御失ったテスラが宙を舞い、4…

  • 6

    チャールズ英国王、自身の「不気味」な肖像画を見た…

  • 7

    日本とはどこが違う? 韓国ドラマのオリジナルサウン…

  • 8

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 9

    英供与車両から巨大な黒煙...ロシアのドローンが「貴…

  • 10

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 5

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 6

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 7

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 8

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 9

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 10

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中