最新記事

核戦争

米「INF全廃条約」離脱なら、新たな核軍拡競争に火が付く

Russia to 'Restore Balance' if U.S. Quits Missile Deal

2018年10月23日(火)14時10分
トム・オコナー

ロシアの短距離弾道ミサイル「イスカンダル」。INF条約違反になる後継ミサイルをロシアは開発している、とアメリカは批判してきた Russian Ministry of Defense

<トランプの離脱表明には、ロシアとの関係を強化しつつ軍備増強を進める中国への対抗意識も?>

ドナルド・トランプ米大統領は10月20日、冷戦時代に旧ソ連との間で結んだミサイル条約から離脱する意向を表明。これを受けてロシアは、対抗上ロシアも新たな兵器の開発を進めていくと明らかにした。

10月22日、ロシア大統領府のドミトリー・ペスコフ報道官は記者団に対して、トランプが1987年に米ソ間で結ばれた中距離核戦力(INF)全廃条約からの離脱を示唆したことについて「世界をより危険な場所にしかねない」と警告した。INF全廃条約は、核弾頭および通常弾頭を搭載し、射程が500キロから5500キロまでの範囲の地上発射型のミサイルの廃棄を定めている。

アメリカとロシアは、互いに相手がこの条約に違反して兵器の開発を行っていると非難してきた。ペスコフは、同条約を離脱するという米政府の決定は、アメリカが条約で禁止されたミサイルの開発に取り組んでいることを示している可能性が高く、ロシアも対応策を講じることになると語った。

ロシアの英字新聞モスクワ・タイムズによれば、ペスコフは「(条約離脱は)アメリカが今後、公然とこれらの兵器の開発を行うつもりであることを意味している。そうなれば諸外国が行動を起こす必要があり、ロシアとしてもバランスを取るべく対応せざるを得ない」と語った。

欧州諸国は軍拡競争への発展を懸念

INF全廃条約は米ソ間の緊張緩和の取り組みとして、1987年に当時のロナルド・レーガン米大統領とソ連のミハイル・ゴルバチョフ書記長によって締結された。しかし21世紀に入って、ジョン・ボルトン現大統領補佐官(安全保障担当)などの保守派がアメリカの軍事力のさらなる拡大を訴え、同条約の破棄を呼びかけてきた。そして2014年、米政府はロシアが新たな巡航ミサイルシステムの開発を行い、条約を破っていると非難した。

ロシア側はこれを否定。だが米国務省は2017年、ロシアが開発しているのは核弾頭が搭載可能な地上発射型巡航ミサイル「9M729」だと特定し、同ミサイルの射程距離が条約違反にあたると改めて非難した。一方でロシア側は、アメリカがNATO(北大西洋条約機構)加盟諸国に配備しているミサイル迎撃システムこそが条約違反だと非難した。

ヨーロッパ諸国は、同条約が破棄されれば軍拡競争は避けられないと懸念している。ドイツのハイコ・マース外相は10月20日、ドイツの当局者たちは「これまでロシアに対して繰り返し、アメリカによる条約違反の申し立てに回答するよう促してきた」と声明で述べ、今後は「アメリカに対して、同条約からの離脱が招き得る結果をよく考えるよう促していく」と表明した。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米石油・ガス掘削リグ稼働数、22年1月以来の低水準

ワールド

アングル:コロナの次は熱波、比で再びオンライン授業

ワールド

アングル:五輪前に取り締まり強化、人であふれかえる

ビジネス

訂正-米金利先物、9月利下げ確率約78%に上昇 雇
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS攻撃「直撃の瞬間」映像をウクライナ側が公開

  • 2

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 3

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国の研究チームが開発した「第3のダイヤモンド合成法」の意義とは?

  • 4

    サプリ常用は要注意、健康的な睡眠を助ける「就寝前…

  • 5

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミ…

  • 6

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 7

    「TSMC創業者」モリス・チャンが、IBM工場の買収を視…

  • 8

    「500万ドルの最新鋭レーダー」を爆破...劇的瞬間を…

  • 9

    元ファーストレディの「知っている人」発言...メーガ…

  • 10

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 3

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる4択クイズ

  • 4

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 5

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 6

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 7

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 10

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中