最新記事

死刑制度

皇太子の改革路線でも変わらない、死刑大国サウジアラビア

2018年8月31日(金)14時50分
デービッド・ブレナン

女性の自動車運転の解禁などリベラルな改革が実施されている一方で…… REUTERS

<ソフト路線でイメチェンを図ってはいても、サウジアラビアの政治的抑圧は変わっていない>

近年、社会の変革を精力的に推し進めているかに見えるサウジアラビアだが、死刑制度に関しては従来の方針を変えるつもりがないらしい。

人権擁護団体「欧州サウジ人権組織(ESOHR)」が先頃発表した報告書によると、サウジアラビアで昨年死刑に処せられた人は146人に上る。この数字は、中国(推定1000人以上)、イラン(少なくとも507人)に次いで世界で3番目に多い(アメリカは23人)。

「死刑という取り返しのつかない刑罰が、人々に恐怖心を植え付ける目的で行われている」と、ESOHRの報告書は批判している。「適正な法的手続きを欠いており、処刑が政治的手段として用いられている点は、ことのほか見過ごせない」

若いムハンマド皇太子の号令の下、サウジアラビアは進歩的なイメージを打ち出そうと努めてきた。皇太子が掲げる改革プラン「ビジョン2030」は、経済を近代化し、社会の活力を高めることを目指している。

国外からの投資を引き付け、国のソフトパワー(文化的魅力)を高める狙いで、リベラルな改革も相次いで実行されている。映画館の開館や、ポップミュージックのコンサート、女性の自動車運転なども解禁された。

しかしその半面、政治的抑圧は今も残っている。サルマン国王が絶対権力を握り続けていることには変わりがない。

最近、人権活動家や有力実業家、対立する王族を弾圧の標的にしているのは、国民に対して明確なメッセージを送ることを意図した行動なのだろう。改革はあくまでも国王からのプレゼントであって、国民が要求するものではないのだ、と。

「劣悪な人権状況がますます危機的な様相を呈し始めている。表現の自由と結社の自由は厳しく制限されていて、恣意的な逮捕もまかり通っている」と、ESOHRは指摘する。

15年のサルマン国王の即位と時を合わせて、サウジアラビアでは死刑が増えている。ここ数年の死刑件数は、90年代以降では最も多い水準だ(昨年は前年より8件少なかったが)。

昨年処刑された146人の内訳は、サウジアラビア国民が90人、外国人が56人。投石や銃殺による処刑も行われるが、最も多いのは斬首だ。処刑前に鎮静剤を飲ませ、その上で頭部を切断する。その後、再び頭部を胴体に縫い付けて磔はりつけにする場合もある。見せしめにするためだ。

死刑の大量執行が行われる場合もある。16年には、テロ容疑で有罪になった47人の処刑が斬首と投石により1日で行われた。これは、80年代以降で最も大規模な同時執行だった。

85~16年にサウジアラビアで死刑になった人は2000人を超すと、国際人権団体アムネスティ・インターナショナルは報告している。ESOHRによれば、サウジアラビアには現在も、死刑判決を言い渡されて控訴している人が10人、判決への異議申し立ての手段を全て使い果たした死刑囚が31人いるという。

本誌2018年9月4日号掲載

202404300507issue_cover150.jpg
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2024年4月30日/5月7日号(4月23日発売)は「世界が愛した日本アニメ30」特集。ジブリのほか、『鬼滅の刃』『AKIRA』『ドラゴンボール』『千年女優』『君の名は。』……[PLUS]北米を席巻する日本マンガ

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ANAHD、今期18%の営業減益予想 売上高は過去

ワールド

中国主席「中米はパートナーであるべき」、米国務長官

ビジネス

中国、自動車下取りに補助金 需要喚起へ

ビジネス

円安、物価上昇通じて賃金に波及するリスクに警戒感=
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された米女優、「過激衣装」写真での切り返しに称賛集まる

  • 3

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」──米国防総省

  • 4

    今だからこそ観るべき? インバウンドで増えるK-POP…

  • 5

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 6

    未婚中高年男性の死亡率は、既婚男性の2.8倍も高い

  • 7

    「鳥山明ワールド」は永遠に...世界を魅了した漫画家…

  • 8

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 9

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 10

    心を穏やかに保つ禅の教え 「世界が尊敬する日本人100…

  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 10

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 4

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 7

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこ…

  • 8

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 9

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 10

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中