最新記事

1つの中国

中国怒らせた南洋の小国パラオの苦悩 チャイナマネー捨て台湾と国交続けられるか

2018年8月29日(水)19時00分

静かなコロールの旅行代理店窓口。4日撮影(2018年 ロイター/Farah Master)

空室ばかりのホテルや、停泊したままの観光船、そしてシャッターが下ろされた旅行代理店──。小さな太平洋の島国パラオに広がるこうした光景に、熾烈さを増す中国と台湾の外交闘争の板挟みになった同国の苦悩を見て取ることができる。

中国は昨年、この「南洋の楽園」への観光ツアーを事実上禁止した。外交関係のない同国は、違法な旅行先だと主張している。

中国が太平洋諸島に対して影響力を拡大する中で、今や17カ国しか残っていない台湾の外交同盟国の1つであるパラオは、中国側に寝返るよう圧力を受けている、と現地の当局者や実業家は危惧している。

「中国が観光客を武器にしている、という話でもちきりだ」と、コロールでホテル2軒を経営するジェフリー・バラブさんは言う。「カネを一旦流れ込ませてから、それを引き揚げ、外交関係の樹立をパラオに迫っていると信じている人もいる」

コロール中心部を歩けば、中国の撤退ぶりは明白だ。

ホテルやレストランが並ぶ地区に人影はなく、旅行代理店は閉鎖され、マッシュルームの形をした緑の島ロックアイランドへと観光客を運ぶボートは、桟橋につながれたままだ。

禁止以前は、パラオを訪ねる旅行者の約半数が中国人観光客だった。2017年に12万2000人だった訪問者のうち、5万5000人が中国、9000人が台湾からだった。

中国人投資家も、ホテル建設や事業を始めたり、ビーチ沿いの優良不動産を買い漁るなどしていた。

観光禁止を中国が発表した後の落ち込みぶりはあまりに激しく、パラオ・パシフィック航空は7月、所要時間4時間程度の中国便を8月末以降廃止すると発表した。

「(中国政府が)パラオに行く観光客を停滞させようとしている」と、台湾人が経営する同航空は主張する。中国政府による禁止後、同航空の予約が半減しているという。

過去にも、中国は観光を外交の道具として利用している。昨年は、米最新鋭地上配備型ミサイル迎撃システムを韓国が配備したことを受け、韓国ツアーが停止された。

パラオを違法な渡航先として指定したのは、台湾と距離を置くよう圧力をかける目的かと質問したところ、中国外務省は、他国との関係は、中台がともに1つの中国に属するという「1つの中国」政策の枠組みの中で構築されるべきだと説明した。

「1つの中国の原則は、中国が世界のすべての国々と協力的な友好関係を築き、維持するための前提であり、政治的基礎だ」と、同省はロイターに文書で回答した。パラオについては具体的に言及しなかった。

台湾外交部(外務省に相当)は、中国が寛大な支援パッケージや投資を提供することで、この2年間で5カ国の外交承認を、台湾から中国へと変更させたと主張する。

「深刻な外交的脅威に直面しているが、台湾政府は北京からの圧力には屈しない」と、同外交部はホームーページ上で表明。「台湾は、地域の平和と安定を維持し、国際社会において正しい地位を確保するため、友好国と協力する」

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米4月雇用17.5万人増、予想以上に鈍化 失業率3

ビジネス

為替円安、行き過ぎた動きには「ならすこと必要」=鈴

ワールド

中国、月の裏側へ無人探査機 土壌など回収へ世界初の

ビジネス

ドル152円割れ、4月の米雇用統計が市場予想下回る
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国の研究チームが開発した「第3のダイヤモンド合成法」の意義とは?

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    サプリ常用は要注意、健康的な睡眠を助ける「就寝前の適切な習慣」とは?

  • 4

    「TSMC創業者」モリス・チャンが、IBM工場の買収を視…

  • 5

    元ファーストレディの「知っている人」発言...メーガ…

  • 6

    「500万ドルの最新鋭レーダー」を爆破...劇的瞬間を…

  • 7

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 8

    映画『オッペンハイマー』考察:核をもたらしたのち…

  • 9

    中国のコモディティ爆買い続く、 最終兵器「人民元切…

  • 10

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 3

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる4択クイズ

  • 4

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 5

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 6

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 7

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 10

    メーガン妃の「限定いちごジャム」を贈られた「問題…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 10

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中