最新記事

ミャンマー

名誉市民、名誉会長取り消しに肖像画撤去...... 地に墜ちたスーチーの栄光

2018年8月29日(水)12時23分
大塚智彦(PanAsiaNews)

民族浄化容疑で国際調査団から訴追を求められたミン・アウン・フライン最高司令官(左)と握手するアウンサンスーチー REUTERS/Soe Zeya Tun

<かつてミャンマー民主化期待の星と呼ばれたアウンサンスーチー。だが、今やその名は少数民族への大量虐殺によって地に墜ちた>

ミャンマーの国家最高顧問兼外相で実質的な国家指導者であるアウンサンスーチー女史がこれまでに授与された英国での名誉市民権や名誉会長などが次々と取り消され、母校のオックスフォード大学に飾られていた肖像が撤去されるなど逆風がさらに強くなっている。原因は言わずと知れた同国西部ラカイン州のイスラム教少数民族ロヒンギャ族への人権侵害問題で、一向に指導力を発揮せず問題を放置どころか悪化させているとの国際世論が背景にある。

1年前の2017年8月25日にロヒンギャ族の武装勢力が同州のミャンマー警察施設を襲撃したことをきっかけに始まったミャンマー国軍のロヒンギャ族への掃討作戦は、略奪、レイプ、虐殺などの深刻な人権侵害を引き起こし、その結果として約70万人のロヒンギャ族が越境して隣国バングラデシュに避難した。

それから1年、ミャンマー・バングラデシュ両政府による難民帰還プログラムも一向に成果を見せない中、ミャンマーは国際社会から「民族浄化」「組織的大量虐殺」との批判を受けている。

8月27日には国連人権理事会が設置した国際調査団がミャンマー軍のミン・アウン・フライン最高司令官ら幹部6人を「民族浄化(ジェノサイド)容疑」で国際法に基づく捜査と訴追を求めるとの内容の報告書を公表した。

■参考記事:ロヒンギャを襲う21世紀最悪の虐殺(前編)

民主化運動の旗手として長期の自宅軟禁にも関わらずミャンマーの民主化に取り組み、1991年にはノーベル平和賞を受賞したスーチー女史。2015年の総選挙で自らが率いる国民民主連盟(NLD)が勝利して軍政に終止符を打ち、政権を実質的に担当。民主国家ミャンマー誕生の原動力としての重要な役割を果たした。

かつての民主化のヒロインはどこに?

しかし、ロヒンギャ族だけでなく他の少数民族への軍の迫害、さらに時代に逆行するかのように報道の自由を求めるジャーナリスト、マスコミへの厳しい言論統制と弾圧が強化されるミャンマーの実情に対し、かつての民主化運動の指導者であるスーチー女史の最高権力者としての「力量」を疑問視する声が次第に強くなり、国際社会特に欧米社会からの孤立が続いている。

そんな中、亡き夫マイケル・アリス氏の母国でもあり、スーチー女史が若き日に学んだオックスフォード大学がある英国などで、彼女への風当たりがさらに厳しくなる事態が起きているのだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米EV税控除、一部重要鉱物要件の導入2年延期

ワールド

S&P、トルコの格付け「B+」に引き上げ 政策の連

ビジネス

ドットチャート改善必要、市場との対話に不十分=シカ

ビジネス

NY連銀総裁、2%物価目標「極めて重要」 サマーズ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 2

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS攻撃「直撃の瞬間」映像をウクライナ側が公開

  • 3

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を受け、炎上・爆発するロシア軍T-90M戦車...映像を公開

  • 4

    テイラー・スウィフトの大胆「肌見せ」ドレス写真...…

  • 5

    サプリ常用は要注意、健康的な睡眠を助ける「就寝前…

  • 6

    ロシア軍「Mi8ヘリコプター」にウクライナ軍HIMARSが…

  • 7

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミ…

  • 10

    「TSMC創業者」モリス・チャンが、IBM工場の買収を視…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 3

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる4択クイズ

  • 4

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 5

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 6

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 7

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 10

    メーガン妃の「限定いちごジャム」を贈られた「問題…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 6

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中