最新記事

トルコ

トルコ通貨リラ急落を招いた、トランプの関税引き上げ「攻撃」

Donald Trump's Fight With Turkey's Erdogan, Explained

2018年8月14日(火)16時40分
クリスティナ・マザ

7月のNATO首脳会議では良好な関係が噂されたトランプ(左)とエルドアンだが Kevin Lamarque-REUTERS

<双方の宗教関係者の身柄引き渡しを求めるアメリカとトルコの対立の裏には、トランプとエルドアンそれぞれの政治的思惑が>

先週末以降のトルコ通貨リラの急落は、対米関係の急激な悪化がそのきっかけとなった。

ドナルド・トランプ米大統領は先週10日、アメリカとトルコの関係は「現時点では良好なものではない」とツイートし、トルコ製の鉄鋼・アルミニウムを対象とした関税を引き上げると発表した。一方トルコのレジェップ・タイップ・エルドアン大統領は週明けの13日、アメリカはトルコの「背中を刺した(裏切った)」と非難した。

アメリカとトルコは共にNATO(北大西洋条約機構)加盟国で、7月にベルギーで開催されたNATO首脳会議では、トランプとエルドアンの良好な関係が噂されていた。だが今の両者の態度は、両国のこれまでの協調的な関係からは逸脱しつつある。

トランプとエルドアンの対立の中心にいるのは、複数の宗教関係者。なかでも問題となっているのは、数十年にわたってトルコで暮らし、2016年にトルコ当局に逮捕されたアメリカ人牧師のアンドリュー・ブランソンだ。

ブランソンは、エルドアン政権転覆を狙った16年のクーデター未遂後、強化された取り締まりで逮捕され、収監された。エルドアンは、かつての盟友で現在は米ペンシルベニア州で暮らすイスラム聖職者フェトフッラー・ギュレンが、クーデター計画の首謀者だと非難。今月10日付のニューヨーク・タイムズ紙に寄稿した論説で、ギュレン派が「私の政府に対して流血のクーデターを起こそうとした」と主張した。

宗教関係者をめぐる対立がエスカレート

エルドアンは、ブランソンがギュレンの支持者らと協力したほか、エルドアンと対立関係にあり分離独立を掲げるクルド人政党のためにスパイ行為をはたらいたとも主張した。しかしギュレンの支持者は伝統的にクルド人とは同盟関係にないため、ブランソンに対する告発の妥当性を疑問視する声もある。

ブランソンは身柄を拘束されて以降も無実を主張しており、米国務省が釈放に向けて働きかけを続けているが、今も自宅軟禁状態にある。

一方でトルコもアメリカに対してギュレンの身柄引き渡しを要求しているが、歴代の米政権に断られてきた経緯がある。また複数の報道によれば、エルドアンはイランの米制裁逃れを手助けした罪で禁錮2年8カ月の有罪判決を受けたトルコ人銀行家ハカン・アッティラを釈放させるために、ブランソンを交渉材料として利用したいと考えている可能性もある。

しかし収監者の交換をめぐって始まった両国の対立は、あっという間に双方に長期的な影響を及ぼしかねない危機へと変わった。リスク分析サービス会社コニアス・リスク・インテリジェンスの上級アナリストでトルコ情勢を専門とするマグダレナ・キルチネルは、こう指摘する。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ナワリヌイ氏殺害、プーチン氏は命じず 米当局分析=

ビジネス

アングル:最高値のビットコイン、環境負荷論争も白熱

ビジネス

決算に厳しい目、FOMCは無風か=今週の米株式市場

ビジネス

中国工業部門企業利益、1─3月は4.3%増に鈍化 
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われた、史上初の「ドッグファイト」動画を米軍が公開

  • 3

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 4

    目の前の子の「お尻」に...! 真剣なバレエの練習中…

  • 5

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 6

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 7

    美女モデルの人魚姫風「貝殻ドレス」、お腹の部分に…

  • 8

    19世紀イタリア、全世界を巻き込んだ論争『エドガル…

  • 9

    「気持ち悪い」「恥ずかしい...」ジェニファー・ロペ…

  • 10

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 6

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 7

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 8

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 9

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 10

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 3

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 4

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中