最新記事

中国共産党

中国人留学生は国外でも共産党の監視体制に怯えている

RESISTANCE AND RISK

2018年8月1日(水)18時30分
チウ・チョンスン(仮名、アメリカ在住の活動家)

フェイスブックのような欧米系企業のサービスを使う場合も、ユーザーの情報が中国当局に渡されるリスクに備えてプリペイド式携帯電話でログインする。実際、アップルは2月、中国人ユーザーのiCloudアカウントの運用を中国のデータセンターに移行させることに同意した。

身元がばれたら、恐ろしい事態が待ち受けているかもしれない。中国では、国家指導者の正当性に疑問を呈する活動を組織することは違法とされている。そうした市民を逮捕・起訴する当局の権限は、遠く離れた国外にいる私たちにも及ぶ。

過去の不幸な事件に学ぶこと

活動を広げていくに当たり私たちは賛同者に、ビラを貼る際にはマスクをするなどして身元を隠すことを勧めている。過去の経験から、国外の中国人コミュニティーは中国政府に批判的な人物の言動を支持しないことが予想されるためだ。それどころか、中国政府に告げ口をする「番犬」の役割を担う学生グループもある。

昨年5月、メリーランド大学の卒業式で留学生の楊舒平(ヤン・シューピン)は中国の環境問題を批判し、民主的な価値観を称賛するスピーチをした。このときの様子を捉えた動画がネットに流出すると、批判が殺到。中国の国営メディアは楊のスピーチを「反中国」と呼び、怒りに燃えた人々が彼女の両親の住所をネット上に公開した。

しかし一連の騒動の間、在米中国人学生・研究者連合会が楊をサポートする気配は見られなかった。彼らは楊のスピーチを「許容し難い」と非難。結局、楊はソーシャルメディア上で謝罪に追い込まれた。

私たちの活動への賛同者が増えるにつれて、ツイッターアカウントへの注目度も高まっていった。ただし、私たちは中国本土の学生には参加を控えるよう呼び掛けている。人工知能(AI)とディープラーニングの発展によって、当局による監視体制が一段と強まっているためだ。

激しいフィッシング攻撃にもさらされている。ツイッターやフェイスブック、Gメールはもちろん、ビラの画像をダウンロードするためのドロップボックスのアカウントについても、連日のようにパスワード変更要求メールが届いた。

一方で、支援の輪も想像しなかったほど広がっている。カリフォルニア大学アーバイン校で学んでいるある賛同者からは、こんな感動的なメッセージが届いた。

「ビラを貼ろうかどうか、しばらくの間悩んでいた。私の行動に賛同しない人に見つかることが心配だったから。でも、マーチン・ルーサー・キングは『問題になっていることについて沈黙した日に、私たちの命は終わりに向かい始める』と語っていた。習の行いは絶対に間違っており、人々はあまりに長い間沈黙している。だからリスクを取ることに決めた。私の行動によって変化が生まれ、事態が好転するよう祈っている」

冷え込む春の夜に私たちが大学の掲示板にビラを貼った行為は、ささやかな抵抗であり、正しいと信じて育った共産党のイデオロギーと個人的に決別した瞬間だった。だが、一歩を踏み出したのは私たちだけではない。

From Foreign Policy Magazine

【お知らせ】ニューズウィーク日本版メルマガのご登録を!
気になる北朝鮮問題の動向から英国ロイヤルファミリーの話題まで、世界の動きを
ウイークデーの朝にお届けします。
ご登録(無料)はこちらから=>>

[2018年7月17日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

日仏、円滑化協定締結に向けた協議開始で合意 パリで

ワールド

NATO、加盟国へのロシアのハイブリッド攻撃を「深

ビジネス

米製造業新規受注、3月は前月比1.6%増 予想と一

ワールド

暴力的な抗議は容認されず、バイデン氏 米大学の反戦
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国の研究チームが開発した「第3のダイヤモンド合成法」の意義とは?

  • 2

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロシア空軍基地の被害規模

  • 3

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 4

    「500万ドルの最新鋭レーダー」を爆破...劇的瞬間を…

  • 5

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 6

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 7

    「複雑で自由で多様」...日本アニメがこれからも世界…

  • 8

    中国のコモディティ爆買い続く、 最終兵器「人民元切…

  • 9

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 10

    「TSMC創業者」モリス・チャンが、IBM工場の買収を視…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 5

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 6

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 7

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 8

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 9

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 10

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 10

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中