最新記事

フランス

W杯フランス代表が受け継ぐリリアン・テュラムのDNA

2018年7月13日(金)18時17分
広岡裕児(在仏ジャーナリスト)

20年前のフランス対クロアチア戦で、テュラム(写真左)は国民的英雄になった(1998年、パリW杯の準決勝) REUTERS

<決勝進出の実力とともに「人種を越えた統合のシンボル」が帰ってきた>

ロシアで開催中のサッカー・ワールドカップ(W杯)の決勝は、フランス対クロアチアに決まった。

この両チームがW杯で戦うのは20年ぶり。前回はフランス大会、パリ郊外のスタッド・ド・フランス競技場での準決勝だった。

あのときは0対0で前半を終わり、ハーフタイムの後にいきなりクロアチアに1点を取られた。だがフランスはすぐに1点を取り返す。その時GKのほぼ正面に躍り出て、シュートを放ったのはリリアン・テュラムだった。彼は、その後もペナルティー・エリアの角のすぐ外からゴールを決めてフランスを勝利に導いた。

2点目のボールがネットを揺らすと、テュラムは座り込んで指で鼻をつつき「どうして俺が」という表情をした。無理もない。彼は142回という男子ナショナルチーム選抜の記録をもっているが、ポジションはDF。この日の2点が彼のキャリアの全得点だったのである。そしてその2発が、テュラムを国民的英雄にした。

その後、テュラムがその名声をどう使ったのかを話したい。

わが名は「ブラック・ブラン・ブール」

20年前、決勝に進んでブラジルも破って初優勝を遂げたフランス・チームは国旗の「bleu-blanc-rouge(青白赤)」をもじって「black-blanc-beur(ブラック・ブラン・ブール)」といわれた。黒、白、そしてブールは「アラブ」をひっくり返した「ブラア」がなまって「ブール」となったもので北アフリカからのアラブ移民のことだ。

たしかに、リリアン・テュラムはフランスの海外領土グアドループ(カリブ海)生まれで、9歳のときに家族と共に本土に渡った黒人、キャプテンは白人で現在監督のディディエ・デシャン、そしてチームの軸はアルジェリア移民2世のジネディーヌ・ジダン。まさにフランスの理想とする人種を越えた統合のシンボルだった。

「当時のブラック・ブラン・ブールというスローガンは、フランス人であるとはどういうことなのか、私たちに問いかけてきました。あのチームは異なる宗教、異なる色、異なるアクセントで構成されたイメージを発信しました。とてもポジティブでした」──ロシア大会たけなわの6月15日、フランスのラジオ・フランスキュルチュールのインタビューでテュラムはこう語った。

ところが次の2002年日韓大会、優勝の最有力候補として臨んだが結果は惨憺たるものに終わった。ジダンは大会前の試合で負傷し、チームも予選3試合で1点もとれず無残に敗退した。

その頃国内では、移民を排斥する極右勢力が伸び、その空気を読んだ当時のサルコジ内相は「郊外の若者は社会のクズだ」と言い放った。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米イーベイ、第2四半期売上高見通しが予想下回る 主

ビジネス

米連邦通信委、ファーウェイなどの無線機器認証関与を

ワールド

コロンビア、イスラエルと国交断絶 大統領はガザ攻撃

ワールド

米共和党の保守強硬派議員、共和下院議長解任動議の投
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロシア空軍基地の被害規模

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉起動

  • 4

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 5

    ポーランド政府の呼び出しをロシア大使が無視、ミサ…

  • 6

    米中逆転は遠のいた?──2021年にアメリカの76%に達し…

  • 7

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 8

    「レースのパンツ」が重大な感染症を引き起こす原因に

  • 9

    パレスチナ支持の学生運動を激化させた2つの要因

  • 10

    大卒でない人にはチャンスも与えられない...そんなア…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 4

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 5

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 6

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 7

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 8

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」…

  • 9

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 10

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 10

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中