最新記事

財政破綻

超インフレ+現金不足のベネズエラ あらゆる支払いが食料との物々交換に

2018年7月10日(火)17時13分

カラカスで6月、トウモロコシの粉2袋(左奥)を代金として支払い、散発してもらう男性(2018年 ロイター/Marco Bello)

カリブ海に面したベネズエラ北部の町リオチコでは、真昼の太陽の下、十数人の漁師が近くのラグーンでその日捕った魚を売ろうと客を待っている。だが、彼らは現金を手に入れようとしているのではない。

捕ったボラやタイを、小麦粉や米、食用油などと交換しようというのだ。

「ここに現金はない。物々交換だけだ」と、ミレディ・ロベラさん(30)は、夫が捕ってきた魚が入ったクーラーボックスを手に、海沿いの道を歩きながら言った。4人の子どもに食べさせる食料か、息子のてんかん治療薬と、魚を交換できればと考えている。

ハイパーインフレに苦しむ南米ベネズエラでは、慢性的に不足する食料や医薬品と同じように現金の入手も難しく、市民は日用品を得るために、物々交換に頼る場面が増えている。

この国では、ちょっとした買い物やサービスの支払いにも巨大な銀行券の山が必要になるが、そのための現金の流通量も単純に不足している。

都市部の正規小売店などは、銀行振込みやデビットカードによる支払いに対応できるが、地方にあるリオチコのような人口2万人の町ではそれは難しい。

西に130キロ離れた首都カラカスでさえ、非正規に小さな商売を営む個人の多くは、銀行サービスやPOS(販売時点情報管理)端末へのアクセスがなく、対価を物で受け取ることを好んでいる。

ハイパーインフレと現金不足を背景とした、物々交換の広がりは、かつて豊かだった国が、もっとも原始的な売買の仕組みへと逆戻りしなければならなくなった窮状を示している。

「とても原始的な支払い方法だ。だが十分な現金がないこと自体、国としても、非常に原始的だ」と、コンサルティング会社ダタナリシスのエコノミスト、ルイス・ビセンテ・レオン氏は言う。

天を突くインフレ

野党が多数を占めるベネズエラ議会によれば、年間のインフレ率は5月までに2万5000%近くに急騰しているが、中央銀行がそれに見合った速さで銀行券を印刷できていないとエコノミストは指摘する。

かつて南米でもっとも裕福な国の1つだったベネズエラは、マドゥロ政権下で経済が崩壊し、2015年から2017年にかけて人口の3%にあたる100万人近くが国外に脱出した。

5月の大統領選で再選を果たしたマドゥロ氏は、上昇し続ける消費者物価や、食料や医薬品の不足は、野党や米政府が主導する「経済戦争」が原因だと非難している。マドゥロ大統領の新たな任期は6年で、米国は大統領選の結果を「公正ではない」と批判している。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

焦点:認知症薬レカネマブ、米で普及進まず 医師に「

ワールド

ナワリヌイ氏殺害、プーチン氏は命じず 米当局分析=

ビジネス

アングル:最高値のビットコイン、環境負荷論争も白熱

ビジネス

決算に厳しい目、FOMCは無風か=今週の米株式市場
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 3

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われた、史上初の「ドッグファイト」動画を米軍が公開

  • 4

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 5

    目の前の子の「お尻」に...! 真剣なバレエの練習中…

  • 6

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 7

    美女モデルの人魚姫風「貝殻ドレス」、お腹の部分に…

  • 8

    19世紀イタリア、全世界を巻き込んだ論争『エドガル…

  • 9

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 10

    ロシア軍「Mi8ヘリコプター」にウクライナ軍HIMARSが…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 6

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 9

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 10

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 3

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 4

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中