あの男が帰ってくる ! ポルノ法違反の過激なイスラム急進派代表が逃亡先から
大統領候補擁立の動きも
もっとも「逃亡生活」というイメージとは裏腹に、シハブ容疑者は支援者などからの多額の献金や支援でサウジアラビアのメッカで優雅な生活を送る一方、インドネシアから聖地への「大巡礼(ハッジ)」や「小巡礼(ウムロ)」などに訪れる政界要人、宗教指導者と次々と面会してはその写真がネット上で公開され、海外でもその存在感を支援者に見せつけていた。
2018年6月2日には、かつての民主化運動の指導者の一人として大学生や都市部のインテリ層に人気があったものの、近年は野党の立場から反ジョコ・ウィドド大統領の姿勢を鮮明にしている国民信託党(PAN)のアミン・ライス最高顧問会議議長と面会。同席したのは2019年の大統領選で再びジョコ大統領に挑戦することを明言している野党グリンドラ党党首で独裁政権のスハルト大統領のかつての女婿だったプラボウォ・スビヤント氏で、この会合で反大統領派の結束を確認したとのニュースも流れた。一説では支持団体が大統領選にシハブ代表を担ぎ出そうとの動きもあり、この日の3者会談では大統領選での候補者選定の生臭い協議も行われたといわれている。
捜査中断の背景には政治的思惑も
シハブ代表のポルノ規制法違反容疑の捜査中止は「わいせつな会話をしたとされるチャットアプリの画像の出どころが確定できなかったため」と警察は説明しているが、捜査開始から1年以上経過した後のこの判断は誰が見ても通常ではなく、なんらかの政治的背景に基づくものとの見方が有力だ。
インドネシアは6月27日に統一地方首長選挙、8月には来年の大統領選に向けた正副大統領候補の届け出締め切り、そして来年の大統領選と国会議員選挙と政治日程が続き、熱い政治の年を迎えつつある。
ジョコ大統領は「イスラム教徒への配慮が乏しい」と一部のイスラム教組織から批判を受けている。こうした中で急進派代表とはいえ、一部の狂信的な支持者がいるシハブ代表とグリンドラ党、PANなどの野党勢力が手を結ぶ動きをみせていることを重く見て、「捜査当局による言われない弾圧」とのFPI側の主張が大統領選で政治的に利用されることを回避するため止むを得ない措置をとったのではないかとの見方もある。
ジョコ大統領側にしてみれば、来年の大統領選で堂々と野党候補と選挙戦を戦うためにも、反大統領の急先鋒を形成している一部のイスラム急進派、そして一部野党勢力との間にいささかも「政治的瑕疵(かし)」との批判を受ける余地を残さないための方便というわけだ。