最新記事

貧困

飽食ニッポンにも飢餓は存在する

2018年2月22日(木)15時00分
舞田敏彦(教育社会学者)

「今の日本で餓死なんてあるわけない」と思うかもしれないが 13160449-iStock.

<現代の日本でも少なくない人たちが飢餓を経験している。その経験率は若年層、低学歴層に偏っている>

2007年7月、北九州市で52歳の男性が自宅で死亡しているのが発見された。死因は餓死で、遺書には「おにぎり食べたい」と書かれていた。生活保護を打ち切られ、生活困窮に陥っていたためと見られる。

「今の日本で餓死なんてあるわけない」と思う人もいるかもしれないが、餓死者がいることは統計でも確認される。2016年中に、「食糧の不足」が原因で死亡した者は15人と記録されている(厚労省『人口動態統計』)。そのうちの10人は、40~50代の現役層だ。

餓死には至らずとも、飢餓を経験している人は多いだろう(1日1食でしのいでいる)。2010~14年に各国研究者が共同で実施した『第6回・世界価値観調査』では、「この1年間で、十分な食料がない状態で過ごしたことがあるか」たずねている。18歳以上の国民のうち、「しばしばある」ないしは「時々ある」と答えた人の割合を国ごとに計算し、高い順に並べると、<表1>のようになる(英仏は調査に参加せず)。

maita180222-chart01.jpg

発展途上国では飢餓の経験率が高い。ルワンダやハイチでは、国民の半分以上が飢餓を経験している。経済大国のアメリカも11.5%と比較的高い。富裕層と貧困層の格差が大きいためだろう。

日本は5.1%で、20人に1人の割合だ。人口の概数(1億2000万人)に乗じると612万人で、東京都の人口の約半分が飢えを経験していることになる。決して少数ではない。

これは国民全体の数値だが、問題とすべきは、飢餓経験が社会的にどのように分布しているかだ。おそらくは、社会的な不利益を被りやすい層で多いと考えられる。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ジョージア「スパイ法案」、大統領が拒否権発動

ビジネス

必要なら利上げも、インフレは今年改善なく=ボウマン

ワールド

台湾の頼次期総統、20日の就任式で中国との「現状維

ワールド

イスラエル軍、ガザ北部で攻勢強化 米大統領補佐官が
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバいのか!?

  • 3

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイジェリアの少年」...経験した偏見と苦難、そして現在の夢

  • 4

    「まるでロイヤルツアー」...メーガン妃とヘンリー王…

  • 5

    時速160キロで走行...制御失ったテスラが宙を舞い、4…

  • 6

    チャールズ英国王、自身の「不気味」な肖像画を見た…

  • 7

    日本とはどこが違う? 韓国ドラマのオリジナルサウン…

  • 8

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 9

    英供与車両から巨大な黒煙...ロシアのドローンが「貴…

  • 10

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 5

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 6

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 7

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 8

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 9

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 10

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中