最新記事

中国

尖閣に中国潜水艦――習近平の狙いと日本の姿勢

2018年1月15日(月)07時00分
遠藤誉(東京福祉大学国際交流センター長)

中国が大きな顔をしていられることを、日本政府自身が許している側面を見逃してはならないだろう。

今も中国に厳しく抗議はしない日本

残念なことに、現在の安倍内閣も、当時とそう大きくは変わらないように思われる。

政府与党は日中友好を叫び、「中国との関係が改善した」と喜んでばかりいる。

そんな折に、なぜ関係改善に逆行する行動を中国が取ったのかを、不思議がっている側面さえある。

中国の戦略が、何も見えていないのだ。

中国が自民党の二階幹事長や公明党の山口代表を歓迎したのは、あくまでも「一帯一路に協力させよう」という戦略的目的からであり、領土や安全保障問題に関しては、日本に一歩も譲る気はない。

CCTVでは毎日のように安倍内閣が憲法改正を通して軍国主義の道を再び歩もうとしているという批判報道を繰り返しているし、韓国にも「絶対に日本と軍事同盟を結ぶな」として昨年10月末に中韓合意文書を受け入れさせた。

北朝鮮に韓国への接近を促したのも中国であり、その目的は日米韓の離間であった。

韓国が慰安婦問題を再び持ち出したのも、中国の意向に沿ったものである。

中国は日本を牽制して、アメリカの北東アジアでのプレゼンスを弱めようとしており、一帯一路経済構想に日米を誘いこんで、グローバル経済のトップリーダーになろうと目論んでいるだけだ。そうすれば「中華民族の偉大なる復興」が叶い、「中国の夢」が実現する(この詳細は『習近平vs.トランプ 世界を制するのは誰か』)。

ここまで持っていかないと、中国共産党による一党支配体制は崩壊するのである。なぜなら中国共産党は、日中戦争時代に強大化する過程で日本軍と共謀したという事実を人民に知られたら困るからである。中国共産党は自分がついている「嘘」を人民が知る日が近いことを知っている。どんなに言論統制をしてもネットがあるために防ぎきれないからだ。

だから、たとえ人民に知られる日が来たとしても、ここまで中国を繁栄させてくれたのなら中国共産党の「嘘」を許そうという気持に人民がなるように、「繁栄」と「軍事強国」を実現していなければならないのだ。

日本は、中国のその掌(てのひら)の上で制御されていることに気が付かないでいる側面はないだろうか。それとも、接続水域での潜水艦の潜航は、国際法上、認められているという論理なのだろうか。いずれにしても、こういった行動が中国の既成事実化につながらないよう、注意しなければならないことは確かだ。

endo-progile.jpg[執筆者]遠藤 誉
1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。東京福祉大学国際交流センター長、筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会科学研究所客員研究員・教授などを歴任。著書に『習近平vs.トランプ 世界を制するのは誰か』(飛鳥新社)『毛沢東 日本軍と共謀した男』(中文版も)『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』など多数。

※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。

この筆者の記事一覧はこちら≫

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

マレーシアGDP、第1四半期は前年比4.2%増 輸

ビジネス

大和証G、26年度までの年間配当下限を44円に設定

ワールド

北朝鮮、東岸沖へ弾道ミサイル発射=韓国軍

ワールド

ロシア、対西側外交は危機管理モード─外務次官=タス
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 2

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた異常」...「極めて重要な発見」とは?

  • 3

    存在するはずのない系外惑星「ハルラ」をめぐる謎、さらに深まる

  • 4

    羽田空港衝突事故で「日航の奇跡」を可能にした、奇…

  • 5

    「円安を憂う声」は早晩消えていく

  • 6

    老化した脳、わずか半年の有酸素運動で若返る=「脳…

  • 7

    アメリカはどうでもよい...弾薬の供与停止も「進撃の…

  • 8

    共同親権法制を実施するうえでの2つの留意点

  • 9

    日鉄のUSスチール買収、米が承認の可能性「ゼロ」─…

  • 10

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

  • 5

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 6

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 7

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 10

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中