最新記事

中国

東南アジア、「中国依存」で払う高いツケ

2017年9月12日(火)10時33分

 9月8日、フィリピン、マレーシア、タイなど東南アジア諸国は、中国経済の好調を支えに高成長を謳歌している。しかし中国への依存を深めるにつれて中国政府の意向に逆らいにくい立場に立たされており、政治的あるいは経済的に「ツケ」を払うことになるかもしれない。タイ首都バンコクのビジネス街で2015年5月撮影(2017年 ロイター/Chaiwat Subprasom)

フィリピン、マレーシア、タイなど東南アジア諸国は、中国経済の好調を支えに高成長を謳歌している。しかし中国への依存を深めるにつれて中国政府の意向に逆らいにくい立場に立たされており、政治的あるいは経済的に「ツケ」を払うことになるかもしれない。

中国は資本流出を食い止めようと躍起だが、それでも東南アジアに資金を投入しており、習近平国家主席が提唱する現代版シルクロード構想「一帯一路」に絡むインフラプロジェクトがその大部分を占める。

また中国人旅行者が東南アジア各地の観光地に押し寄せているほか、対中貿易も大幅に増加している。

ロイターの試算によると、インドネシアとマレーシアの対中輸出は上半期に40%以上増加。タイとシンガポールは約30%、フィリピンは20%以上増えた。

中国との経済的結びつきは東南アジア諸国にとってありがたいものだが、中国との間で南シナ海の領有権問題を抱えるベトナムやフィリピンにみられるように、政治的な悩みも生む。

中国が我を通すために経済面から圧力を掛けるリスクは増している。IHSマークイットのアジア太平洋チーフエコノミスト、ラジブ・ビスワス氏は「東南アジア諸国連合(ASEAN)諸国の対中輸出増加で、地政学的リスクに対して脆弱になる恐れが高まっている」と話す。

<苦境に陥った韓国>

東南アジア諸国は中国との関係を考える上で韓国の例を見るとよいだろう。中国は米軍の最新鋭迎撃システム「高高度防衛ミサイル(THAAD)」の韓国配備に反発。その結果、韓国を訪れる中国人旅行者は激減し、余波はロッテ・グループなど中国に進出している韓国企業にも及んだ。

ビスワス氏は「韓国の事例は、中国との間で経済的な相互依存が拡大すると地政学的な面でいかに中国に屈しやすくなるのかを明確に示している」と述べた。

フィリピンも海洋の領有権問題で中国に盾突いた後、2012年に中国から果物の禁輸措置を食らっている。フィリピンのドゥテルテ大統領が中国に対する姿勢を和らげたことから、禁輸措置は昨年にやっと解除された。

リスクコンサルタント会社、コントロール・リスクスの東南アジアヘッドのデーン・チャモロ氏は「タイの観光業やフィリピンのバナナ輸出など中国の依存度の高いセクターはいずれも打撃を受けやすい」と指摘。「中国にとって流れを止めたり、邪魔したりするのがどれほど容易か簡単に分かる」とした。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

サウジ6月原油販売価格、大半の地域で上昇 アジア5

ワールド

インドネシアGDP、第1四半期は予想上回る 見通し

ビジネス

バークシャー株主総会、気候変動・中国巡る提案など否

ワールド

イスラエル軍、ラファ住民に避難促す 地上攻撃準備か
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    外国人労働者がいないと経済が回らないのだが...... 今も厳しい差別、雇用許可制20年目の韓国

  • 2

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 3

    翼が生えた「天使」のような形に、トゲだらけの体表...奇妙な姿の超希少カスザメを発見、100年ぶり研究再開

  • 4

    こ、この顔は...コートニー・カーダシアンの息子、元…

  • 5

    ウクライナがモスクワの空港で「放火」工作を実行す…

  • 6

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 7

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 8

    単独取材:岸田首相、本誌に語ったGDP「4位転落」日…

  • 9

    マフィアに狙われたオランダ王女が「スペイン極秘留…

  • 10

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる4択クイズ

  • 3

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 4

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 5

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 6

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 7

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 8

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 9

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 10

    メーガン妃の「限定いちごジャム」を贈られた「問題…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

  • 10

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中