最新記事

インドネシア

バドミントン王国インドネシアの憂鬱 国際大会で決勝トーナメント進めず 

2017年6月13日(火)16時00分
大塚智彦(PanAsiaNews)

青年スポーツ省も協会査問へ

インドネシア政府青年スポーツ省は今回の結果を重く見て、選手役員、PBSI幹部、関係者を近く呼び出して、説明をまずは聞きたいとしている。イマム・ナラウィ大臣は「選手団のブディハルト代表に詳しい敗因の理由を質したい」としている。これまでにPBSIなどに寄せられたファンの声に「(敗北した相手の)インド代表選手をなめていたのではないか」との批判が多くあるが、スシ・スサンティさんなどは「決してそんなことはない」と全面否定。こうしたことから大臣自ら代表団や協会幹部を呼んで敗因分析に乗り出そうとしている。

インドネシアのバドミントン界は2012年のロンドンオリンピックの女子ダブルスで、中国、韓国の選手とともに「故意に試合に負けようとした無気力試合」を行ったと認定され、選手が失格処分を受けたことがある。中国、韓国はいざ知らず、インドネシアでは国技であり国の名誉と誇りがかかり、金メダルの可能性のある数少ないオリンピック競技での失格に国中がショックに見舞われた。

だがその後は、むしろこの不名誉な処分をバネにPBSIは若手選手の発掘、育成、強化に積極的に取り組んできた。

負けても悔しがらない?

しかし今大会では完璧に打ちのめされた。その敗因の詳しい分析はまだだが、全体として女子より男子選手が競り合いや勝負所でミスをするケースが多く、表情にも余裕がなく、逆に悔しさを前面に出す訳でもなかった。このため「特に男子選手のメンタルの弱さが敗因ではないか」(インドネシア語紙記者)との指摘が出ている。現在より設備、予算の面で格段に見劣りする時代に朝から晩まで一心不乱にただ練習に打ち込んだスシ・スサンティ選手を記憶している国民はテレビに映った男子選手の「負けても悔しがらない選手」「闘争心に乏しいスマートな選手」では世界の強豪とは戦えない、と憂鬱を感じたことだろう。

スポーツは音楽と並んで人の心を豊かに、同時に人々を夢中にして団結させる。価値観の多様性が問われようとしている今のインドネシアだけに、バドミントン王国の一日も早い復活が待ち望まれている。


otsuka-profile.jpg[執筆者]
大塚智彦(ジャーナリスト)
PanAsiaNews所属 1957年東京生まれ。国学院大学文学部史学科卒、米ジョージワシントン大学大学院宗教学科中退。1984年毎日新聞社入社、長野支局、東京外信部防衛庁担当などを経てジャカルタ支局長。2000年産経新聞社入社、シンガポール支局長、社会部防衛省担当などを歴任。2014年からPan Asia News所属のフリーランス記者として東南アジアをフィールドに取材活動を続ける。著書に「アジアの中の自衛隊」(東洋経済新報社)、「民主国家への道、ジャカルタ報道2000日」(小学館)など



【お知らせ】ニューズウィーク日本版メルマガリニューアル!
 ご登録(無料)はこちらから=>>

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米FRB利下げは9月、従来予想の7月から後ずれ=M

ワールド

ボーイング新型宇宙船打ち上げ、17日以降に延期 エ

ビジネス

トヨタの今期、2割の営業減益予想 市場予想下回る

ビジネス

ドイツの輸出、今年は停滞の見通し=商工会議所調査
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:岸田のホンネ
特集:岸田のホンネ
2024年5月14日号(5/ 8発売)

金正恩会談、台湾有事、円安・インフレの出口......岸田首相がニューズウィーク単独取材で語った「次の日本」

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地ジャンプスーツ」が話題に

  • 2

    「自然は残酷だ...」動物園でクマがカモの親子を捕食...止めようと叫ぶ子どもたち

  • 3

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国の研究チームが開発した「第3のダイヤモンド合成法」の意義とは?

  • 4

    「真の脅威」は中国の大きすぎる「その野心」

  • 5

    いま買うべきは日本株か、アメリカ株か? 4つの「グ…

  • 6

    デモを強制排除した米名門コロンビア大学の無分別...…

  • 7

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 8

    外国人労働者がいないと経済が回らないのだが......…

  • 9

    中国軍機がオーストラリア軍ヘリを妨害 豪国防相「…

  • 10

    イギリスの不法入国者「ルワンダ強制移送計画」に非…

  • 1

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 2

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地ジャンプスーツ」が話題に

  • 3

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国の研究チームが開発した「第3のダイヤモンド合成法」の意義とは?

  • 4

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 5

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミ…

  • 6

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 7

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 8

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 9

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 10

    外国人労働者がいないと経済が回らないのだが......…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

  • 10

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中