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エコノミスト誌が未来のテクノロジーを楽観視する理由

2017年5月10日(水)11時54分
印南敦史(作家、書評家)


 日本が他国に先駆けて未来に到達したのは、通信業界が孤立した独占的性質をもち、また国内市場に十分な規模があったためである。これによって、日本のハイテク企業は他国のシステムとの互換性など気にせずに、創意工夫することができたのだ。
 それは、欧米の消費者が同じような機能の携帯端末を買えるようになる、数年前のことだ。『WIRED』誌にはしばらくの間、「日本の女子高生ウォッチ」なるコラムがあったほどである。今日、日本の女子高生(ガラケーを最も積極的に受け入れたユーザー層)のしていることが、明日には世界中に広がると踏んだのだ。(25ページより)

スタンデージは同じような視点に基づき、モバイルマネーの普及においてケニアが長らく世界をリードしている点にも注目している。このエピソードはしばしば話題になるが、そもそもその根底にあるのは、同国が銀行インフラの存在しない空白状態だったことにある。

しかし原因はどうあれ、ナイロビでは携帯電話でタクシー料金が支払えるのに、ニューヨークではそれができないという状況が何年も続いていたというのである。そうした歪みに、テクノロジーの本質があるということだ。


最終的に普及するテクノロジーは例外なく、一部の集団だけに使用がとどまっている潜伏期を経ることは否定できない。突然、どこからともなく湧いてくるわけではないのだ。限界的事例を見つけだし、これから台頭するテクノロジーや行動を見抜くのは科学というより職人芸だ。トレンドを当てるのは難しい。しかし、それこそあまたのコンサルタントや未来学者、そして常に記事の材料となる新しい発想やトレンドを探しているテクノロジー・ジャーナリストの仕事なのだ。(27ページより)

スタンデージはさらに、来るべきもののヒントを得るために目を向けるべき場所として、本やテレビ番組、映画などのSFに描かれた想像上の未来をも挙げている。

未来を描く物語は、ユビキタス(偏在的)なAIや寿命を延ばす若返り技術、太陽系の惑星の植民地化が実現したとき、あるいは人類の細分化が起こって「ポスト人類」というべき新たな種が登場したとき、世界はどうなるかというビジョンを示しているというのだ。それは、長期的に出現しうるさまざまな結果を俯瞰するのに便利な手段だとも。


多くのSF作品は一見未来を描いているようで実際には現在を描いており、コンピュータへの過度の依存、あるいは環境破壊といった、今日的なアイデアや懸念と向き合っている。幅広いSF作品に触れることで、より柔軟に未来の技術的あるいは社会的シナリオを描けるようになる。(29ページより)

ただしSFはテクノロジーの進歩に対する見方や議論を形づくり、はからずもそれを制約することもあるのだという。たとえばSF世界のロボットと現実世界のそれはまったく違うため、SF世界のロボットをまねようとすると、ロボット工学は誤った方向に進みかねないというのだ。

しかし、だからこそ20世紀半ばのSFの古典を読み、そこにどのような未来の読み違いがあり、それはなぜなのかを考えることに意味があるというのである。

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