最新記事

<ワールド・ニュース・アトラス/山田敏弘>

ロシアのサイバー攻撃をようやく認めたトランプ

2017年1月11日(水)17時00分
山田敏弘(ジャーナリスト)

Mike Segar-REUTERS

<大統領選に介入したロシアのサイバー攻撃について、これまで頑なに否定してきたトランプがようやく認めた。そもそもロシアはこれ以前から大規模なサイバー攻撃を繰り返してきた>(写真:今月トランプタワーで記者からの質問に答えるトランプ)

 米民主党全国委員会のコンピューターに何者かが侵入したのは、2015年。

 犯行グループはその後1年にわたってサーバーに潜伏、2万通におよぶ内部メールなどを盗み出した。そして2016年7月、大統領選の民主党指名候補にヒラリー・クリントンが指名される民主党全国大会の前日に、内部告発サイトのウィキリークスでメールが暴露された。米政府は、このサイバー攻撃が、共和党のドナルド・トランプ候補を勝たせたかったロシア政府の仕業だと主張してきた。

 ロシアのこのサイバー攻撃について、年末年始からアメリカで大きな騒動になった。米報道番組などは、かなりの時間を割いてこのニュースを報じているが、何が起きているのか。

 まず12月29日、バラク・オバマ米大統領は、ロシア政府が2016年の米大統領選にサイバー攻撃で介入したとして、駐米ロシア外交官35人の国外退去処分にするなどの制裁措置を発表した。2014年に北朝鮮がソニー・ピクチャーズにハッキングした事件から、米政府はアメリカにサイバー攻撃を実施した国などに制裁を科すようになっている。この動きはその流れに沿ったものだ。

【参考記事】ロシアハッキングの恐るべき真相──プーチンは民主派のクリントンを狙った

 これに対してロシアでは、プーチン大統領がロシア外務省からオバマに対抗するために35人の在ロシア米外交官を国外退去処分にすべきだとのアドバイスを受けたが、それを拒否。サイバー攻撃についてロシアの関与を否定しているプーチンは、オバマの動きは挑発行為であり餌には食いつかないと述べた、と報じられている。

 年が明けると、問題はさらに展開する。先週5日には、国家情報長官のジェームズ・クラッパーや、NSA(米国家安全保障局)の長官で米サイバー軍の司令官でもあるマイケル・ロジャーズなどそうそうたる面々が、米上院軍事委員会の公聴会に姿を見せ、ロシアのハッキング騒動について証言した。

 そして翌6日には、クラッパーやロジャーズらがニューヨークのトランプ・タワーを訪れ、これまでロシアの関与を否定する発言を繰り広げてきたトランプに、2時間に渡ってロシアのサイバー攻撃についてブリーフィングを行った。情報機関のトップが就任間際の次期大統領を諭しに行くなど前代未聞のことだ。

 この会談後、国家情報長官室はロシアの攻撃について、25ページにわたる報告書を一般に公表した。ただこの報告書は機密情報が含まれないもので、オバマ大統領やトランプに提出された報告書と比べると、半分以上の情報は削除されているという。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

台湾の頼次期総統、20日の就任式で中国との「現状維

ワールド

イスラエル軍、ガザ北部で攻勢強化 米大統領補佐官が

ワールド

アングル:トランプ氏陣営、本選敗北に備え「異議申し

ビジネス

日本製鉄副会長が来週訪米、USスチール買収で働きか
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバいのか!?

  • 3

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイジェリアの少年」...経験した偏見と苦難、そして現在の夢

  • 4

    「まるでロイヤルツアー」...メーガン妃とヘンリー王…

  • 5

    時速160キロで走行...制御失ったテスラが宙を舞い、4…

  • 6

    チャールズ英国王、自身の「不気味」な肖像画を見た…

  • 7

    日本とはどこが違う? 韓国ドラマのオリジナルサウン…

  • 8

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 9

    英供与車両から巨大な黒煙...ロシアのドローンが「貴…

  • 10

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 5

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 6

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 7

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 8

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 9

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 10

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 4

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中