最新記事

日米関係

トランプ・安倍会談で初めて試される次期大統領の本気度

2016年11月16日(水)16時26分
マイケル・グリーン(ジョージタウン大学準教授、専門は東アジアの政治外交)

 一方で、日本やアジア諸国にとって安心な兆しもある。米シカゴ国際問題評議会が実施した直近の調査によると、アメリカ人の3分の2がグローバリゼーションは「良い」と考えており、60%が自由貿易を支持していた。米調査会社ピュー・リサーチセンターの世論調査で、アジアにおけるアメリカの同盟国が中国との紛争に巻き込まれた場合にアメリカが防衛すべきだと答えた割合は56%に上った。

 そう考えると、反エスタブリッシュメントが注目を集めた今回の大統領選は、孤立主義を支持する有権者の感情に押し流されたというわけではなさそうだ。トランプが副大統領にマイク・ペンス・インディアナ州知事を、首席補佐官にラインス・プリーバス共和党全国委員長を起用したことで、ケリー・アヨッテ上院議員やスティーブ・ハドリー元大統領補佐官、ボブ・コーカー上院外交委員会委員長といった、国家安全保障分野でより伝統的な見解を持つ専門家にポストが割り当てられる期待が高まった。

日本はリスクを負ってきた

 共和党が多数を占める議会では国防予算が予算制限法と強制削減によって宙に浮くなか、日本の国防関係者はアジアにおけるリバランス(再均衡)に向けて独自に軍事力を増強するべく国防予算を増やそうとしている。米誌フォーリン・ポリシーに最近載った記事は、アジアの同盟国には米軍駐留費の負担を増額するよう敬意をもって申し入れさせてもらうとしたが、それは選挙中に「ただ乗りする同盟国は守ってやらない」と繰り返したトランプの発言に比べればはるかに穏健だ。直接会談に臨む安倍もこの点が頭をよぎるはずだが、日本国憲法の解釈を修正してまで同盟を重視してきた彼としては、リスクを負って同盟に尽くしてきた日本の取組みはもっと評価されるべきだと指摘するだろう。もし両者とも会談で前向きな成果を得たければ、今後日米が協力して取り組むために多くの立場を共有することが分かるはずだ。

 とはいえ日本の世論は、アメリカへの信頼を根本から揺さぶった大統領選中のトランプの発言をそう簡単に忘れない。日本の官僚からは、日本政府はTPPを守り抜き、米軍駐留費を十分に負担してきた実績を示して新政権の強硬姿勢を突き返すべきだという声も上がる。安倍は今回の会談でひとまずそうした主張を封印する代わり、トランプ政権による対日並びに対アジア戦略の輪郭を一から形作ることに焦点を置くだろう。もしうまくやれば、安倍は他のアジア諸国やトランプ次期大統領にも多大な恩恵をもたらすことになる。

From Foreign Policy Magazine

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

銃撃されたスロバキア首相、手術後の容体は安定も「非

ワールド

焦点:対中関税、貿易戦争につながらず 米中は冷めた

ワールド

中ロ首脳会談、包括的戦略パートナーシップ深化の共同

ビジネス

東芝、26年度営業利益率10%へ 最大4000人の
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 2

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史も「韻」を踏む

  • 3

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダブルの「大合唱」

  • 4

    羽田空港衝突事故で「日航の奇跡」を可能にした、奇…

  • 5

    マーク・ザッカーバーグ氏インタビュー「なぜAIを無…

  • 6

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 7

    それでもインドは中国に勝てない...国内企業の投資意…

  • 8

    総額100万円ほどの負担増...国民年金の納付「5年延長…

  • 9

    老化した脳、わずか半年の有酸素運動で若返る=「脳…

  • 10

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

  • 5

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 6

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 7

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 10

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 10

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中