最新記事

トランプ政権を生き残るアメリカ民主主義の安全装置

2016年11月14日(月)19時26分
アレクサンダー・ナザライアン

大統領選後、トランプタワーの前でトランプ「大統領」に抗議する市民 Eduardo Munoz-REUTERS

<トランプが次期大統領に決まって多くのアメリカ人がパニックに陥っている。その一人である筆者が自分自身に言い聞かせている「それでもアメリカは大丈夫」の根拠>

 ドナルド・トランプが次期大統領に決まっても私は取り乱したりしていない──というのは嘘。内心は完全にパニック状態だ。それでも万事大丈夫だと自分自身に言い聞かせている。その根拠は以下の通りだ。

●ドナルド・トランプはセールスマン

 トランプはモノを作るのではなく、「売る」側の人間だ。今年はメキシコとの国境に壁を造ったりイスラム教徒を入国禁止にするといったアイデアだった。彼の主張にはぎょっとするが、どうせはったりだ。支持者も話半分に聞いているようだし、トランプ自身がそれを見越している。選挙後、トランプ陣営の公式ウェブサイトから「イスラム教徒の包括的入国禁止」の記述が削除されたのが良い例だ。

●トランプにはイデオロギーがない

 トランプは主張をコロコロ変える。妊娠中絶であれ、イラク問題であれ、トランプが一つのことを言った矢先に正反対のことを言った例はいくらでもある。道徳的な拠り所がないのは危ういことだが、それが好材料でもある。トランプは地球温暖化対策には「政治的に」反対の立場かもしれないが、あらゆる太陽光パネルがアメリカの理想を脅かすと主張する狂信者とは違う。

【参考記事】トランプファミリーの異常な「セレブ」生活

●トランプの権力は限定的

 トランプは「ブラック・ライブズ・マター(黒人の命は大切だ)」と唱えて抗議する群衆を非難することはできても、アメリカの国内法に従う数千の法執行機関に対して彼が行使できる権力は厳しく制限されている。トランプは大統領の任期中、最大で3名の米連邦最高裁判事を新たに任命する。だが今夏の時点で、バラク・オバマ大統領は終身制の連邦裁判官の3分の1に上る329名を任命したばかり。また、トランプは連邦政府機関のトップの人事に多大な影響力をもつとはいえ、司法省の市民権局をはじめとする連邦機関は大統領職よりも権威の高い「法律」に従うことに、いずれ気付かされるはずだ。

●共和党は上院の勢力が微妙

 大統領選と同時に行なわれた連邦議会選挙で、共和党は上院・下院とも過半数を確保した。だが上院では共和党51議席、民主党48議席と、両党の差はごくわずかだ。オハイオ州選出の上院議員ロブ・ポートマンなど一部の共和党議員は、かねてからトランプへの不支持を表明していたことから、上院での採決で民主党にたなびく可能性もある。トランプと最後まで共和党大統領候補指名を戦ったテキサス州選出のテッド・クルーズ上院議員も、ティーパーティーのような極右の保守主義の後押しを受けてトランプに対抗し得る。

【参考記事】クリントン当選を予想していた世論調査は何を間違えたのか

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

中国、核兵器を増強しつつ先制不使用協議を要求 米が

ワールド

ブラジル洪水の影響、数週間続く可能性 政府は支援金

ビジネス

ソロス・ファンド、第1四半期にNYCB株売却 GS

ワールド

AIとデータセンター関連の銅需要、年間20万トン増
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 2

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史も「韻」を踏む

  • 3

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダブルの「大合唱」

  • 4

    マーク・ザッカーバーグ氏インタビュー「なぜAIを無…

  • 5

    それでもインドは中国に勝てない...国内企業の投資意…

  • 6

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 7

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 8

    羽田空港衝突事故で「日航の奇跡」を可能にした、奇…

  • 9

    総額100万円ほどの負担増...国民年金の納付「5年延長…

  • 10

    奇跡の成長に取り残された、韓国「貧困高齢者」の苦悩

  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋戦争の敗北」を招いた日本社会の大きな弱点とは?

  • 4

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 5

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 6

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 7

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 10

    ウクライナ防空の切り札「機関銃ドローン」、米追加…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 10

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中