最新記事

トルコ情勢

不安定化するトルコで、拡大する内務省の役割

2016年11月7日(月)16時30分
今井宏平(日本貿易振興機構アジア経済研究所)

テロとの戦いがトルコの喫緊の課題

 クーデタ未遂後の2016年8月末、内務大臣であったエフカン・アラが突然辞任し、9月1日に新たにスレイマン・ソイルがその職に就いた。1969年生まれで47歳のソイルは元々、公正発展党ではなく、90年代に連立政権が続いた時代にその中心となっていた正道党に属していた。2008年には正道党の後継政党である民主党の党首に選ばれたが、民主党は2000年代に全く選挙で支持を得ることができず、ソイルは2012年に公正発展党に加わった。

 ソイルを公正発展党に熱心に誘ったのは、当時首相で現在大統領であるレジェップ・タイイップ・エルドアンであったと言われている。今年5月からは労働・社会保障大臣を務めていた。ソイルは7月15日のクーデタ未遂後に街頭に出て熱心に反クーデタ活動を展開したことで閣僚の中でも重要な内務大臣の職を得た。余談だが、公正発展党は他党で要職に就いていた人物を引き抜き、閣僚に抜擢することが比較的多い。ソイルの他に、人民の声党で党首を務めていたニュマン・クルトゥルムシュが副首相を務めている。

 公正発展党政権はますますテロとの戦いに力を入れている。最近ではPKKへの攻勢を強めている。上述した村の守護者制度の強化に加え、10月末にはクルド人の中心都市であるトルコ南東部のディヤルバクル県の共同市長、ギュルタン・クシャナクとフラット・アンルがPKKとの関係を疑われ、拘束、逮捕された。さらに11月3日にも同様にPKKとの関係を疑われた人民民主党(HDP)の議員11名が拘束され、その後、共同党首のセラハッティン・デミルタシュとフィゲン・ユクセクダーを含む8人が逮捕された。HDPは昨年6月7日と11月1日の総選挙でクルド系の政党として初めて大国民議会で議席を得ており、現在でも59議席を有しており、この逮捕は国内外に衝撃を与えている。

 いずれにせよ、テロとの戦いはトルコの喫緊の課題であり、テロの撲滅がトルコの経済発展にもつながることは確実である。エルドアン大統領は、クーデタ未遂後に発動され、その後も延長している国家非常事態宣言は、脅威がなくなるまで継続すると発言している。また、シリア内戦もアレッポでの戦闘、そして近い将来予想されるISの本拠地、ラッカでの戦闘により、さらに難民がトルコに流入する恐れがある。こうした中、今後、ますます内務省の役割が重要になっていくことは間違いない。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

決算に厳しい目、FOMCは無風か=今週の米株式市場

ビジネス

中国工業部門企業利益、1─3月は4.3%増に鈍化 

ビジネス

米地銀リパブリック・ファーストが公的管理下に、同業

ワールド

米石油・ガス掘削リグ稼働数、22年2月以来の低水準
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された米女優、「過激衣装」写真での切り返しに称賛集まる

  • 4

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 5

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」…

  • 6

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 7

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 8

    アカデミー賞監督の「英語スピーチ格差」を考える

  • 9

    19世紀イタリア、全世界を巻き込んだ論争『エドガル…

  • 10

    「鳥山明ワールド」は永遠に...世界を魅了した漫画家…

  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 4

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 5

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 8

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 9

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 10

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 3

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈する動画...「吹き飛ばされた」と遺族(ロシア報道)

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 6

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中