最新記事

トルコ情勢

不安定化するトルコで、拡大する内務省の役割

2016年11月7日(月)16時30分
今井宏平(日本貿易振興機構アジア経済研究所)

トルコ南東部ディヤルバクルで、11月4日、IS(イスラム国)による爆弾テロが起きた。 Sertac Kayar-REUTERS

<シリア内戦に伴う難民の流入、昨年7月以降のテロの増大、そして今年7月15日のクーデタ未遂事件以降、トルコ国内で内務省が存在感を高めている>

移民政策から軍の再編まで

 シリア内戦に伴う難民の流入、昨年7月以降のテロの増大、そして今年7月15日のクーデタ未遂事件が発生した中、存在感を高めているのが内務省である。内務省の職務は多岐に渡るが、その中でも最も重要なのが国家の防衛と公共秩序の維持であり、不安定化するトルコの国内情勢を安定化させるためにいくつかのテコ入れが行われている。

 例えば、難民政策に関しては、2014年に移民管理総局(GDMM)が内務省傘下に創設され、シリア難民の法的位置付けの整備で中心的役割を果たしている。

 また、トルコでは、イスラーム国(IS)とクルディスタン自由の鷹(TAK)によるテロが2015年6月以降、頻発している(表1)。TAKは非合法武装組織であるクルディスタン労働者党(PKK)との関係が取りざたされる組織である。

<表1:2015年6月以降にトルコで発生した主なテロ>imai1107b.jpg

 2015年10月10日にアンカラで、ISによるトルコ共和国史上最も死亡者が多かったテロ事件が起こったが、後の10月28日に、内務省はテロリスト・リストを発表した。このリストは定期的に更新されており、リストに掲載されるテロリストの数は増加している。特にクーデタ未遂事件後、ギュレン運動の関係者が多く名を連ねるようになった。PKK対策として、前回の小論で述べたように「村の守護者制度」を専門に扱う部署の設置を決定した。

【参考記事】トルコ政府とPKKとの抗争における「村の守護者」の役割

 内務省は軍の再編にも密接に関与している。7月15日のクーデタ未遂事件後、これまで軍が統括してきた国内治安維持軍と沿岸警備隊が内務省の傘下に入った。また、エルドアン大統領は、国家情報局(MİT)の国内部門と警察も内務省傘下に統一するプランを提示している。

 このように、近年、トルコにおける内務省の存在感は確実に増してきている。内務省の原型はオスマン帝国後期まで遡るが、トルコ共和国において正式に組織化されたのは1985年と比較的新しい。この背景には、1960年代と70年代のトルコが極左と極右の抗争で混乱したことと、1984年にPKKがトルコで本格的にテロ行為を始めたことがあった。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

将来の利下げ回数、賃金など次第 FRBに左右されず

ビジネス

米新規失業保険申請23.1万件、予想以上に増加 約

ワールド

イスラエル、戦争の目的達成に必要なことは何でも実施

ワールド

フーシ派指導者、イスラエル物資輸送に関わる全船舶を
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:岸田のホンネ
特集:岸田のホンネ
2024年5月14日号(5/ 8発売)

金正恩会談、台湾有事、円安・インフレの出口......岸田首相がニューズウィーク単独取材で語った「次の日本」

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必要な「プライベートジェット三昧」に非難の嵐

  • 2

    日本の10代は「スマホだけ」しか使いこなせない

  • 3

    休養学の医学博士が解説「お風呂・温泉の健康術」楽しく疲れをとる方法

  • 4

    ロシア軍兵舎の不条理大量殺人、士気低下の果ての狂気

  • 5

    上半身裸の女性バックダンサーと「がっつりキス」...…

  • 6

    「レースのパンツ」が重大な感染症を引き起こす原因に

  • 7

    テイラー・スウィフトの大胆「肌見せ」ドレス写真...…

  • 8

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 9

    「高齢者は粗食にしたほうがよい」は大間違い、肉を…

  • 10

    総選挙大勝、それでも韓国進歩派に走る深い断層線

  • 1

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地ジャンプスーツ」が話題に

  • 2

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 3

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS攻撃「直撃の瞬間」映像をウクライナ側が公開

  • 4

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 5

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必…

  • 6

    外国人労働者がいないと経済が回らないのだが......…

  • 7

    テイラー・スウィフトの大胆「肌見せ」ドレス写真...…

  • 8

    「自然は残酷だ...」動物園でクマがカモの親子を捕食…

  • 9

    翼が生えた「天使」のような形に、トゲだらけの体表.…

  • 10

    「レースのパンツ」が重大な感染症を引き起こす原因に

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 6

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 7

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 8

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

  • 9

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 10

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中