最新記事

イギリス

英国EU離脱投票、実は世代の「上vs下」が鍵を握る?

2016年6月15日(水)17時50分
ブレイディみかこ

Facundo Arrizabalaga-REUTERS

<英国のEU離脱投票が迫っているが、保守党と労働党の二大政党が「残留派」と「離脱派」に別れて党内分裂。EU離脱投票の行方を決めるのは、実は「右」対「左」の概念ではなく、どうやら階級や年齢層で分かれる「上」対「下」のようだ>

まるでスコットランド独立投票の再現

 6月23日に行われる英国のEU離脱投票が、まるで2014年のスコットランド独立投票直前のような様相を呈してきた。

 首相も野党第一党の党首も国民に残留を呼び掛けているし、離脱派の右翼政党UKIPも数年前の勢いは失っている。それなら余裕で残留派が勝ちそうなものだが、ついに離脱派がリードという世論調査結果まででてきた。世論調査は会社によって微妙に数字が違うものだが、6月6日に発表されたYouGovの世論調査では、45%がブレキジット(BREXITーーBRITAIN +EXITの造語)、つまり離脱を希望しており、41%が残留希望という数字が出ている。

 「いやー、もう今回は、何もかもすべてが分裂しているね」
 とわたしの配偶者も感慨を述べているように、保守党と労働党の二大政党が「残留派」と「離脱派」に別れて党内分裂しており、特に保守党は次期首相の座を狙う元ロンドン市長のボリス・ジョンソンが離脱派のリーダーとなって首相と対決している。

【参考記事】英キャメロン首相「EU離脱派6つのウソ」

 ジョンソン元ロンドン市長は、昨年日本を訪れた際、「英国は移民を入れなければ日本のように停滞する」などと発言していたわりには、UKIPも真っ青の離脱扇動スピーチを行い、「ナイスなヴァージョンのドナルド・トランプ」とさえ呼ばれている

 ジョンソンは、オックスフォード大学の超トップエリートだけがメンバーになれるブリンドンクラブのリーダーだった。キャメロン首相も同時期にメンバーだったが、彼はまったく目立たない存在だったそうで、頭脳明晰で個性の強いジョンソンこそ未来の首相になる器と言われていたという。ところが人生とは皮肉なもので、地味だったキャメロンが首相になり、ジョンソンはロンドン市長の座に甘んじてきたが、今回のブレキジットこそ官邸への道とばかりに離脱派の旗頭になっている。

 一方、労働党はジェレミー・コービン党首が今一つ迫力に欠け、こちらも党内が分裂している。もともとコービンは、ギリシャ危機のときに猛烈にドイツ主導のEUを批判していた人なので、彼が残留を唱えても説得力がないという事情もある。彼はスペインのポデモスなどの欧州の反緊縮派政党と連帯してEUに改革を求める構想を発表しており、そのために英国はEUに残留せねばと主張しているが、そのメッセージもうまく伝わっていない。

 そもそも、コービンが「EU残留」を唱えることには、ファンダメンタルな危険が潜んでいるとオーウェン・ジョーンズが書いている。


労働党の指導者にとって最大の恐れとは、スコットランドのようになることだ。生活に不満を抱えた労働党支持者たちが、コービンがビジネス界の大物や保守党の大臣たちと一緒になって「脅しの運動」を行っているのを見たら、彼らは労働党を見離すだろう。スコットランド独立投票でも労働党支持者が大挙してSNP支持に流れた。今回は、恐ろしいことに、彼らの移動先はUKIPになるかもしれない。

出典:Guardian:"Working-class Britons feel Brexity and betrayed ... Labour must win them over " by Owen Jones

「経済的脅し」作戦は下層には効かない

 スコットランドの独立投票は「マネー対スピリット」の戦いと言われた。独立反対派の主張は「独立したら経済が大混乱する」「税金が上がる」「物価が上がる」などの「経済的脅し戦略」に終始していたからだ。今回のEU残留派の主張もそれによく似ている。「経済がえらいことになりますよ」と国民を脅すばかりで、ポジティヴな残留理由がほとんど示されていない(コービンは示しているが、示し方が如何せん地味だ)。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

アングル:「豪華装備」競う中国EVメーカー、西側と

ビジネス

NY外為市場=ドルが158円台乗せ、日銀の現状維持

ビジネス

米国株式市場=上昇、大型グロース株高い

ビジネス

米PCE価格指数、インフレ率の緩やかな上昇示す 個
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された米女優、「過激衣装」写真での切り返しに称賛集まる

  • 4

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」…

  • 5

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 6

    アカデミー賞監督の「英語スピーチ格差」を考える

  • 7

    19世紀イタリア、全世界を巻き込んだ論争『エドガル…

  • 8

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 9

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 10

    大谷選手は被害者だけど「失格」...日本人の弱点は「…

  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミ…

  • 10

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 3

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈する動画...「吹き飛ばされた」と遺族(ロシア報道)

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 6

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中