最新記事

ライフスタイル

あなたを大地に還すエコな埋葬 ドイツ企業、遺体堆肥化サービスを開始

2023年3月3日(金)11時15分
岩澤里美(スイス在住ジャーナリスト)
堆肥葬のイメージ

ツェルクラム・ヴィテ社の「堆肥葬」のイメージ MEINE ERDE / YouTube

<散骨や樹木葬など多様化する終いにまた新たな選択肢が>

気候変動を背景に葬儀も環境に優しいスタイルにしようという動きが広まり、遺体を堆肥化してから埋葬する「堆肥葬」がアメリカでじわりと広がっている。2019年のワシントン州での合法化を皮切りに、昨年末はニューヨーク州でも認可され、すでに6州で認められた。他州でも合法化を進めていると聞く。ヨーロッパでは堆肥葬は行われていなかったが、2022年2月から、ドイツで堆肥葬ができるようになっている。

ヨーロッパで初めて実施

ベルリンのツェルクラム・ヴィテ社は、ヨーロッパ初の堆肥葬「マイネ・エアデ(Meine Erde=私の土)」を提供している。遺体を藁や木くず、活性炭などの有機的な成分の中で40日間保管する場所は、ベルリンから離れたドイツ最北端の州、シュレスウィヒ・ホルシュタイン州にある。同州メルン市の墓地の礼拝堂だ。

同社は、この礼拝堂をアルヴァリウム(Alvarium)と名付けた。遺体が入った棺は木製の外観の大型装置に入れ、堆肥化はすべてセンサーで管理する。堆肥化した遺体は、許可されている場所ならどこに埋めても構わない。サービス開始から1年経った今年2月中旬時点で、5件の堆肥葬が行われ、1体がアルヴァリウムで堆肥化中だ。5体は、メルン市や隣州のハンブルク市の墓地に埋葬されたという。

下の動画は、実際にマイネ・エアデを利用した男性が埋葬された様子だ。堆肥葬に決めたのは男性の息子だといい、息子は「これは新しいスタイルです。エコロジカルです。棺も骨壺も要りません。あまり深くは埋めなくて、もちろん、これはまったく新しい形式です(伝統的な土葬では、金属やプラスチックなどの生分解性ではない棺を、地中深くに埋葬する)」と話している。

>>マイネ・エアデの葬儀の動画

マイネ・エアデの費用は2100ユーロ(約30万円)。ドイツでは簡素な葬儀だと約2000ユーロで済むというから、マイネ・エアデは低価格帯の葬儀だ。

親族との会話がきっかけで、堆肥葬を開始

「堆肥葬」の棺

アルヴァリウム内の様子。棺(写真は堆肥化終了後)は背後の木製の外観の大型装置に入れ、遺体の堆肥化はセンサーで管理 ©MEINE ERDE

堆肥葬といえば、3年前、筆者は、スウェーデンで考案された堆肥葬「プロメッション」(遺体を凍結し、フリーズドライしてから土の浅い部分に埋める)についての記事を執筆した。2001年設立のプロメッサ・オーガニック社は長年、プロメッションの施設オープンを目指してきたが、いまだに実現には至っていない。考案者であり、同社を設立したスーザン・ウィーグ-メサクさんは、筆者の寄稿後、プロメッションの利用が叶わないまま他界した。同社は堆肥葬について啓蒙活動を続けている。

プロメッションについては、ツェルクラム・ヴィテ社も知っていた。筆者の質問に対し、プレス担当は「マイネ・エアデは、プロメッションとは大きく違います。また、マイネ・エアデはアメリカの堆肥葬サービス業者たちの真似ではなく、独自に開発した方法です」と答えた。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

トヨタ、米テキサス工場に5億ドル超の投資を検討

ワールド

米国務長官「適切な措置講じる」、イスラエル首相らの

ビジネス

日産、米でEV生産計画を一時停止 ラインナップは拡

ワールド

EU、ロシア資産活用計画を採択 利子をウクライナ支
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:スマホ・アプリ健康術
特集:スマホ・アプリ健康術
2024年5月28日号(5/21発売)

健康長寿のカギはスマホとスマートウォッチにあり。アプリで食事・運動・体調を管理する方法

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された──イスラエル人人質

  • 2

    娘が「バイクで連れ去られる」動画を見て、父親は気を失った...家族が語ったハマスによる「拉致」被害

  • 3

    9年前と今で何も変わらない...ゼンデイヤの「卒アル写真」が拡散、高校生ばなれした「美しさ」だと話題に

  • 4

    服着てる? ブルックス・ネイダーの「ほぼ丸見え」ネ…

  • 5

    「目を閉じれば雨の音...」テントにたかる「害虫」の…

  • 6

    ベトナム「植民地解放」70年を鮮やかな民族衣装で祝…

  • 7

    高速鉄道熱に沸くアメリカ、先行する中国を追う──新…

  • 8

    中国・ロシアのスパイとして法廷に立つ「愛国者」──…

  • 9

    「韓国は詐欺大国」の事情とは

  • 10

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 1

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された──イスラエル人人質

  • 2

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    娘が「バイクで連れ去られる」動画を見て、父親は気…

  • 5

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 6

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 7

    「隣のあの子」が「未来の王妃」へ...キャサリン妃の…

  • 8

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイ…

  • 9

    米誌映画担当、今年一番気に入った映画のシーンは『…

  • 10

    「まるでロイヤルツアー」...メーガン妃とヘンリー王…

  • 1

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された──イスラエル人人質

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々…

  • 5

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 6

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 7

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 8

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 9

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中