最新記事

言語学

日本語は本当に特殊な言語か?

2021年3月24日(水)11時40分
平野卿子(ドイツ語翻訳家)
日本語

laymul-iStock.

<「日本語は特殊な言語である」という言説は果たして正しいのか。言語学的に言えば、ありふれた言語の1つに過ぎない。だが日本語には「音声だけでは十分に機能しない」という特徴がある>

「日本特殊論」は古くから存在する。それは「日本すごい!」という優越感としての特殊論もあれば、「日本はダメだ」という劣等感からの特殊論もある。その中でもメジャーなものの1つが、日本語の特殊論であろう。

「日本語は特殊な言語である」という言説を、わたしたち日本語話者は、誰もが聞いたことがあるはず。しかし、何が特殊なのか?

言語学的に世界を見渡せば、日本語はありふれた言語の1つだといえる。母音や子音の数が平均的であるだけでなく、名詞の単複を区別せず、述語が最後に来る語順(S O V)という特性を持つ言語は、世界言語の中では多数派に属するからだ。

「日本語は特殊な言語である」という言説は、欧米語、特に英語と比較することによるものである。

それでも、ひらがな、カタカナ、漢字、アルファベットの4種類の文字を使い分けるのは、やはり特殊であるという指摘もあろう。しかし、もし日本語が他の言語と違う点があるとすれば、文字だけでなく、音声についても指摘しないわけにはいかない。いや、そこにこそ日本語の特殊性がある。

そもそも言葉とは、考えを音声によって伝えることから生まれた。言葉の基本は音声なのである。国立国語研究所のレポート(2010年)によると、現在、世界には6500ほどの言語があるが、そのうち、きちんとした文字体系のある言語は400くらいだという。

日本語も、千数百年前に中国から漢字(漢語)が入ってくるまでは文字はなかった。音声のみだったのである。

日本語には、同音異義語が異常なまでに多い

ところが、いまわたしたちの使っている日本語は、音声だけでは十分に機能しない。文字を見なければ正確にはわからないことが少なくないのである。これは同音異義語が異常なまでに多いことからきている。

明治以降、それまでなかった西洋の概念や事物を翻訳するために大量の和製漢語が造られた。そのとき、漢字の持つ意味だけに目を向けて音を度外視したために、同音異義語が溢れる結果になった。

これは日本語の音の少なさに原因がある。諸説あるが、音の最小単位である音節が英語は3000以上(数万という説も)あるのに対して、日本語は100くらいだという。いかに少ないかおわかりだろう。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

中国企業、28年までに宇宙旅行ビジネス始動へ

ワールド

焦点:笛吹けど踊らぬ中国の住宅開発融資、不動産不況

ワールド

中国人民銀、住宅ローン金利と頭金比率の引き下げを発

ワールド

米の低炭素エネルギー投資1兆ドル減、トランプ氏勝利
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 2

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた異常」...「極めて重要な発見」とは?

  • 3

    存在するはずのない系外惑星「ハルラ」をめぐる謎、さらに深まる

  • 4

    羽田空港衝突事故で「日航の奇跡」を可能にした、奇…

  • 5

    「円安を憂う声」は早晩消えていく

  • 6

    老化した脳、わずか半年の有酸素運動で若返る=「脳…

  • 7

    アメリカはどうでもよい...弾薬の供与停止も「進撃の…

  • 8

    共同親権法制を実施するうえでの2つの留意点

  • 9

    日鉄のUSスチール買収、米が承認の可能性「ゼロ」─…

  • 10

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

  • 5

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 6

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 7

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 10

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中