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白人関係者がまとめ上げた「プリンス回顧録」に感動し切れない理由

A Memoir by Others

2019年11月23日(土)13時20分
カール・ウィルソン

プリンスは自分と作品の見せ方にもこだわった(1984年のコンサート) MIKE MALONEY-MIRRORPIX/GETTY IMAGES

<幼少時のエピソードや手書き歌詞などファンにはうれしい要素も多いが、何かがふに落ちないプリンス「執筆」の最新本>

プリンスの回顧録『ザ・ビューティフル・ワンズ』(原題)が、10月末に刊行された。

それを聞いた時点で「え?」と思う読者は少なくないだろう。1980年代を中心に一世を風靡したロックスターであり、天才的ソングライターであり、稀有なパフォーマーだったプリンスは、鎮痛剤を過剰処方されたために、2016年4月に死去している。

死んだ人間が、どうやって回顧録を書くのか。なにしろ『ザ・ビューティフル・ワンズ』の著者とされているのは、プリンスただ1人だ。

実は、プリンスは急逝する数カ月前に、回顧録を書くプロジェクトを始動していた。出版社を選び、パリ・レビュー誌の編集者だったダン・パイペンブリングを共著者に選んだ。パイペンブリングはまだ20代で、本を書いた経験もなかったが、そのほうがベテランライターと組むよりも自分のアイデアを通しやすいと、プリンスは考えたようだ。

『ザ・ビューティフル・ワンズ』は、プロジェクトの集大成といっていい。なかでも注目されるのは、全288ページ中約20ページを占めるプリンスの手書きメモだ(ただし判読が非常に難しいため、活字への書き起こしも収録されている)。

その内容は、パイペンブリングが聞いたプリンスの構想に基づき、うまく補足されている。それでも、その内容も構成もデザインも、完璧主義者のプリンスが推敲を重ねてゴーサインを出したものではない。それだけに、この本がそもそも存在するべきなのか、ましてやプリンスを「著者」とすることが適切なのかには重大な疑問が残る。

ファンとしてはまず、プリンスが実際にどんなことを書いているかをチェックしておきたい。手書きメモには、主に1960~70年代の米ミネソタ州ミネアポリスでの少年時代がイラスト入りで描かれている。

明かされる両親への想い

小学生のときの「初舞台」は失敗だったという。タップダンスを披露したが、ろくに練習もせず、音楽もかけずにダラダラ踊り続けたという。あとでクラスメイトから、「黒人はもうタップダンスをやるべきじゃない」と怒られたと振り返っている。

初めてのキスや、風変わりな名前がもたらした事件、高校時代のガールフレンドたちの性格と体形についても、かなり詳細に書かれている。だが何よりも注目すべきなのは、両親に関する記述だろう。

プリンスは「母の目」と「父のピアノ」が、アーティストとしての自分の感覚と想像力を解き放ってくれたと書いている。着飾って外出するときの両親は、とても美しかったという。

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