最新記事

LGBT

「あなたはゲイですか?」って聞いてもいいんですか

日本社会が今もLGBTにとってカミングアウトしづらいのはなぜか、ゲイの在米日本人ジャーナリストに聞く

2015年11月6日(金)16時15分
小暮聡子(本誌記者)

時代は変わる ゲイとして、そしてLGBT問題を取材するジャーナリストとして、日米双方の社会の変化を感じてきた北丸雄二 撮影:Maria Nardone

 今の日本は、LGBT(レズビアン、ゲイ、バイセクシャル、トランスジェンダーなどの性的少数者)にとってカミングアウトしやすい社会と言えるのか。

 東京都渋谷区は11月5日、同性同士のカップルのパートナーシップを公認する「パートナーシップ証明書」の交付を開始した。ここ10年ほどで日本のLGBTを取り巻く状況が変わってきたことを象徴するニュースだろう。

 一方で今の日本社会を見渡すと、LGBTの存在が十分に可視化されているとは言いがたいのもまた事実だ。「親友や家族にLGBTがいる」と答える人が65%に上るアメリカと、何が違うのか。

 ジャーナリストでゲイを公言している北丸雄二は、東京新聞ニューヨーク支局長を経て23年前にそのままニューヨークに移住。90年にゲイ小説の金字塔と言われる『フロント・ランナー』(パトリシア・ネル・ウォーレン著)を訳出して以来、ニューヨークを拠点に世界のLGBTの人権問題の取材を続けてきた。本誌・小暮聡子(ニューヨーク支局)が北丸に話を聞いた。

――実際のところ、日本はカミングアウトしやすい状況なのか。しやすいように変わってきているのか。

 日本社会というのは、アメリカと違って論争もしないし主張もしない。黙っていれば分からないけど、それでもなんとなく生きていける。日本はアメリカと違ってゲイには優しい社会だから、黙っていても生きていけるという言説さえある。でもゲイに優しい社会だったら、もっとカムアウトしやすいはずだ。なのにみんな、カムアウトしていない。

 私は、隠れていたら人間として生きていることにならないと思っている。もちろんみんな秘密は持っているけど、自分のアイデンティティー、つまり自分を受け入れないことには、それは人間じゃないよということがアメリカでは構築されてきた。アメリカでは60年代~70年代にゲイ解放運動があり、80年代にはエイズ問題を契機に啓発運動が起きて、ゲイについての価値観をみんなで共有するようになった。学校でゲイに対する偏見について教えられたり、テレビや映画、ニュースでもゲイに関する情報が増えてきた。

 今の20歳、つまり1995年生まれというのはそういう情報に囲まれて育ってきた世代だ。95年というのはエイズが死の病じゃなくなって、カムアウトしやすくなったとき。「反ゲイ差別」という言説が社会にちゃんと浸透しているから、周りにカミングアウトしている人もたくさんいる。2013年のアメリカの世論調査では、回答者の3分の2である65%が親友や家族にゲイかレズビアンがいると答えている。生身の隣人としてのLGBTが周りにいるという時代が作られてきた。

 しかし、日本ではなかなかカムアウトしない。ゲイやレズビアンはあくまでテレビの中の存在で、エンターテインメントとしてキャラクター化されるだけで全人格として描かれていないから、生身の人間として存在する人たちのことを本気で考えない。そういう状況が今も続いている。

――私は女子高育ちだからか、レズビアンの友達が複数いる。だが周りのストレートの友人に聞くと、ゲイやレズビアンの友達は1人もいないと言われる。それって、おかしくないか。友達が10人や20人いたら、必ずその中に1人はいるはずだ。言わないということは、本当の友達とは言えないのでは。

 それは、その人がゲイやレズビアンの人にとってカムアウトすべき対象ではないということ。カムアウトするに足る、カムアウトする価値のある友達ではないということだろう。もしくは、カムアウトするのが怖いくらい大切な友達という場合もある。お互いに、ゲイとかレズビアンって言っていいのかな、聞いていいのかな、とすくみあっている。そういった空気が変わらないとカムアウトしづらいし、カムアウトされづらい。でも誰かがブレイクスルーしなきゃいけない、というのがアメリカ社会だった。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

必要なら利上げも、インフレは今年改善なく=ボウマン

ワールド

台湾の頼次期総統、20日の就任式で中国との「現状維

ワールド

イスラエル軍、ガザ北部で攻勢強化 米大統領補佐官が

ワールド

アングル:トランプ氏陣営、本選敗北に備え「異議申し
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバいのか!?

  • 3

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイジェリアの少年」...経験した偏見と苦難、そして現在の夢

  • 4

    「まるでロイヤルツアー」...メーガン妃とヘンリー王…

  • 5

    時速160キロで走行...制御失ったテスラが宙を舞い、4…

  • 6

    チャールズ英国王、自身の「不気味」な肖像画を見た…

  • 7

    日本とはどこが違う? 韓国ドラマのオリジナルサウン…

  • 8

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 9

    英供与車両から巨大な黒煙...ロシアのドローンが「貴…

  • 10

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 5

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 6

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 7

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 8

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 9

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 10

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中