最新記事

誤解だらけの米中新冷戦

TikTok・出会い系アプリ、中国への「流出」を防ぐには何が必要か【欧米vs中国】

RUSH TO KEEP OUT CHINESE CAPITAL

2020年9月16日(水)06時50分
エリザベス・ブラウ(ジャーナリスト)

ティーンに人気の動画投稿アプリTikTokをめぐり、米中が熾烈な綱引きを展開中 DADO RUVID-REUTERS

<コロナ禍に乗じて欧米企業を買いあさる中国。先端技術の流出を防ぐには外資規制が急務だが、問題はそれだけでは収まらない。本誌「誤解だらけの米中新冷戦」特集より>

同性愛者の出会い系アプリGrindr(グラインダー)、そして10代に絶大な人気を誇る動画投稿アプリTikTok(ティックトック)。10年前なら、こうしたアプリが国家安全保障上の重大なリスクになるなどと真顔で言えば、頭がおかしいと思われただろう。

だが今、この2つのアプリは地政学的な対立の焦点になっている。
20200922issue_cover200.jpg
欧米諸国は、戦略的に重要な自国企業を守るため、外国資本による買収の規制に乗り出している。これは主に中国企業を念頭に置いた動きだ。ただし規制するのは簡単でも、問題はそれだけでは収まらない。中国企業とその関連企業を締め出したら、コロナ禍で足腰が弱った欧米企業をいったい誰が救うのか。

今や地政学的な競争の最前線で、先端技術、特に安全保障に関わる技術を持つ企業をめぐる攻防戦が繰り広げられている。例えばスウェーデン。2014年以降、中国企業はこの国の企業を「爆買い」してきた。中国資本の傘下に収まったスウェーデン企業の半数以上は、中国が技術覇権を握るため「中国製造2025」計画で重点的に注力すると決めた先端技術を誇る企業だと、スウェーデン防衛研究所は19年に報告した。

しかしコロナ危機以前は、どの国も中国のこうした動きを警戒していなかったようだ。アメリカだけが神経をとがらせ、18年に「外国投資リスク審査現代化法」を成立させた。

一方でドイツはこの年、安全保障上重要な分野の企業の株を外国投資家が購入する際、ドイツ政府の認可が必要になる株式取得割合を25 %以上から10%以上に引き下げている。

その後コロナ危機が発生。いち早く感染拡大を封じ込めた中国は、資金難にあえぐ欧米企業に触手を伸ばし始めた。今年5月には中国銀行傘下の航空機リース会社BOCアビエーションが世界第5位の格安航空ノルウェー・エアシャトルの株式を大量に買い付け、筆頭株主となった。

裏技で送電網を守ったドイツ

救い主を装った中国の二枚舌外交に各国政府と世論は警戒感を募らせ、欧米諸国もようやく外資規制に乗り出し始めた。

ドイツは安全保障に直接的に関連がある分野に限らず、重要な技術分野にも規制の網を広げ、フランス、ポーランド、スペインも同様の措置を取った。イタリア政府も自国企業の知的財産を外国資本から守る法律を強化。スウェーデンの議会も外資規制強化法案を審議中だ。欧州委員会が打ち出したより厳格な外資規制の指針も今年10月から適用される。

【関連記事】米中新冷戦でアメリカに勝ち目はない

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

為替円安、行き過ぎた動きには「ならすこと必要」=鈴

ワールド

中国、月の裏側へ無人探査機 土壌など回収へ世界初の

ビジネス

ドル152円割れ、4月の米雇用統計が市場予想下回る

ビジネス

米4月雇用17.5万人増、予想以上に鈍化 失業率3
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国の研究チームが開発した「第3のダイヤモンド合成法」の意義とは?

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    サプリ常用は要注意、健康的な睡眠を助ける「就寝前の適切な習慣」とは?

  • 4

    「TSMC創業者」モリス・チャンが、IBM工場の買収を視…

  • 5

    元ファーストレディの「知っている人」発言...メーガ…

  • 6

    「500万ドルの最新鋭レーダー」を爆破...劇的瞬間を…

  • 7

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 8

    映画『オッペンハイマー』考察:核をもたらしたのち…

  • 9

    中国のコモディティ爆買い続く、 最終兵器「人民元切…

  • 10

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 3

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる4択クイズ

  • 4

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 5

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 6

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 7

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 10

    メーガン妃の「限定いちごジャム」を贈られた「問題…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 10

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中