日産・西川社長退任、社外取締役らがガバナンス不全を警戒しての逆転劇
報道合戦が埋めた外堀
今回の西川氏の引責辞任は、監査委員会では当初想定していなかった。SARによる報酬問題は法律に違反しておらず、不正の意図がないと社内調査で判明したためだ。ところが、西川社長の辞任を巡る関係者の間での「機運」は、取締役会を前にした週末にかけて「空気が変わり、西川社長の早期辞任の流れが強まった」(日産幹部)。
相次いだ関連報道も背景の一つだ。取締役会の前週末6日までに、監査委員会が西川氏の引責辞任を求めない方向で調整しているとロイターを含む複数のメディアが伝えた。一方、取締役会前日の8日深夜、日本経済新聞電子版が、西川社長が退任する意向を一部の幹部に伝えたと報じた。取締役会当日の9日にかけては複数の報道機関がこれに続いた。
西川社長自身は9日朝、詰めかけた報道陣に対し、今回のタイミングでの辞意を改めて否定したものの「世間の批判の声が強まれば、さらなる求心力低下も懸念された」(別の日産関係者)。西川氏は外堀を埋められた形となった。
急がれる後任選び
今後の焦点は西川社長兼CEOの後任に移る。日産は当面、山内COOがCEO代行を務め、10月末をめどに正式な後継者を選ぶ方針だ。指名委員会委員長の豊田正和社外取締役は9日の会見で、現在100人から10人程度に候補者が絞られており、その中には日産在籍者だけでなく、日産での勤務経験者、ルノー出身者、外国人、女性も含まれていることを明かした。
関係者によると、候補者リストには山内COOのほか、日産では業績の立て直しを担う専任役員を務める関潤専務、中国マネジメントコミッティ議長を務める内田誠専務などが含まれている。今後、専門家による第三者の評価を仰ぎながら絞り込みを急ぐ。
西川社長は会見で、日産の業績に回復の兆しが見えてきたことも、辞任を決めた背景の一つと説明したが、市場の見る目は厳しい。
S&Pグローバル・レーティングは10日付のレポートで、短期間に経営陣の交代が続いたことで、新モデルの投入や生産能力の削減など事業基盤の強化に向けた取り組みの実行に、当初計画より時間がかかる可能性が高まったと指摘。同社の中井勝之主席アナリストは「7―9月期以降の業績を慎重に見極めていく必要性が高まった」としている。
(白木真紀 取材協力:清水律子 編集:平田紀之)
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