最新記事

アメリカ経済

米「輸出主導の景気回復」のウソ

輸出が絶好調なのに喜べないのは、輸入はそれ以上に好調で、赤字は危険レベルを突破しているから

2011年4月5日(火)18時21分
クライド・V・プレストウィッツ(米経済戦略研究所所長)

好調の裏で アメリカの2010年の輸出高は前年比17%増を記録したが Mike Segar-Reuters

 このところ、アメリカの輸出には明るいニュースが多い。ウォールストリート・ジャーナル紙は先月末、原油価格の高騰や日本の大震災といった外国発のリスクに鑑みて、アメリカが謳歌している「輸出主導の回復」の行く末を慮ったほど。

 米中貿易全国委員会も、アメリカの対中輸出が急増しており、バラク・オバマ大統領の打ち出した「対中輸出倍増計画」が早期に達成されそうな勢いだと発表した。さらに、昨年のアメリカの輸出額は前年比17%(2650億ドル)増で、2010年のGDPの伸びの半分を占める、という報告も届いている。

「輸出主導の成長」という表現がアメリカ人のボキャブラリーから消えて、すでに半世紀以上。長年、輸出主導型経済への転換戦略を主張してきた私にとって、これほど嬉しい話はないはずだ。

 なのに、喜ぶ気持ちになれないのはなぜだろう。こんなに明るいニュースがすべて真実のはずがないと感じる原因は何だろうか。

保護主義と呼ばれるのが怖いオバマ

 大きな理由は、この手のニュースがもう一方の輸入の実状に触れていないことだ。アメリカの貿易赤字は経済危機でいったん減少したものの、過去12カ月間で着実に増加しており、経常赤字は多くのエコノミストが限度と考えるGDPの3%を軽く超えている。つまり、アメリカは輸出が好調であるにもかかわらず、経常赤字が維持不可能な水準にまで膨れ上がるという危機に直面しているようだ。

 輸出が増えたのに赤字が増えるというパラドックスの背景には、「輸出のまやかし」がある。国際貿易とグローバル化を推進する現行システムの信奉者は、貿易赤字や輸入の問題を輸出と一緒に論じたがらない。そんなことをすれば、現行システムの根底に流れる理論や前提の信憑性と、現行システムが米経済にマイナスである可能性を指摘されかねないからだ。

 その結果、輸入ではなく輸出の話ばかりが強調される。オバマ大統領は保護主義と呼ばれかねない貿易赤字の解消には触れず、輸出倍増ばかり呼びかける。他の現状維持派の人々も、一部の貿易相手国の重商主義的な振る舞いや、それに対する「保護主義的」な対抗策から世間の目を逸らせたいと考えており、輸出の好調さと経済への貢献度を強調する。

 もちろん、輸出が倍増するのは素晴らしい話だ。だがその点に注目が集まることで、輸入が輸出以上に増え続けていることへの関心が薄れるとしたら、アメリカが新たな危機に直面する可能性は高い。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米カーライルの新たな日本投資特化ファンド、過去最大

ビジネス

正のインフレ率での賃金・物価上昇、政策余地広がる=

ビジネス

AI規制の整備、新たなアプローチ必要も=英中銀

ワールド

台湾議会、改革巡り紛糾 野党案への抗議で数百人がデ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:スマホ・アプリ健康術
特集:スマホ・アプリ健康術
2024年5月28日号(5/21発売)

健康長寿のカギはスマホとスマートウォッチにあり。アプリで食事・運動・体調を管理する方法

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された──イスラエル人人質

  • 2

    娘が「バイクで連れ去られる」動画を見て、父親は気を失った...家族が語ったハマスによる「拉致」被害

  • 3

    「隣のあの子」が「未来の王妃」へ...キャサリン妃の「ロイヤル大変貌」が話題に

  • 4

    米誌映画担当、今年一番気に入った映画のシーンは『…

  • 5

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々…

  • 6

    9年前と今で何も変わらない...ゼンデイヤの「卒アル…

  • 7

    ベトナム「植民地解放」70年を鮮やかな民族衣装で祝…

  • 8

    中国の文化人・エリート層が「自由と文化」を求め日…

  • 9

    服着てる? ブルックス・ネイダーの「ほぼ丸見え」ネ…

  • 10

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイ…

  • 1

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された──イスラエル人人質

  • 2

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 5

    娘が「バイクで連れ去られる」動画を見て、父親は気…

  • 6

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 7

    「隣のあの子」が「未来の王妃」へ...キャサリン妃の…

  • 8

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 9

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 10

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイ…

  • 1

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された──イスラエル人人質

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々…

  • 5

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 6

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 7

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 8

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 9

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中