コラム

トランプ議会演説は、普通に戻ったフリをしただけ

2017年03月09日(木)20時15分

議会演説へのメディアの評判は悪くなかったが Jim Lo Scalzo-REUTERS

<トランプのまともな演説を聞いて安心してしまった人も多かったようだが、よくよく考えれば最低限のことをやっただけ。これが普通だから!>

トランプ大統領の2月末の議会演説と、そのあとの反応を見て思い出したものがある。それは『こち亀(こちら葛飾区亀有公園前派出所)』。

多くのアメリカ人は「あら! いいことを言うじゃん!!」と演説を聞いて感心していた。「党を超えて、アメリカのため、世界のために頑張ろうって? そう! そういうことを聞きたかった!」と、ちょっと安心した人も多かったことでしょう。現にCBSの世論調査では、演説を見た人の76%が大統領のメッセージを支持すると答えたという。

そこで思い出したのが、更生して褒められている不良に対しての両津勘吉の名台詞。「ごくふつうにもどっただけなのに、それをえらい、立派だと甘やかしてるでしょうが!」

演説自体は作品として悪くない。メッセージもよかったし、理路整然と論点を並べていた。ちょっとした小話も加えて、言葉の工夫もあった。そして、リズムよく話していたことは間違いない。しかし、大統領の演説としては名作と評されるようなものではなく、ごく一般的な内容だった。なんでこんなに褒められるのかというと、今まで普通のことさえできなかった人が行ったものだからだと思う。

【参考記事】トランプ施政方針演説、依然として見えない政策の中身

失礼なたとえかもしれないが、初めて便器に座って用を足せた2歳児を親が精いっぱい褒めるのと同じような現象が起きていると感じた。まともな演説ではあったが、これは最低限のもののはず。常識なことが書いてある台本をちゃんと読み上げられて良かったが、それが普通なのだ。

と言いながら、正直、僕もちょっと演説を見て、にわかに希望を持ち始めた。分裂や対立ばかりを煽ってきたトランプの方向転換を願っている身として、演説のトーンが変わることが大事な第一歩だ、とちょっと喜んでしまった。

意外と僕もウブだな~。すれているおっさんに、乙女心がまだ残っているな~。うふふ・・・と、うきうきしていた僕だが、すぐに絶望した。演説の前後にトランプが取った言動をよく見ると、有言実行にするつもりがないと分かったからだ。そのギャップにおっさん、心がハートブレイク。

プロフィール

パックン(パトリック・ハーラン)

1970年11月14日生まれ。コロラド州出身。ハーバード大学を卒業したあと来日。1997年、吉田眞とパックンマックンを結成。日米コンビならではのネタで人気を博し、その後、情報番組「ジャスト」、「英語でしゃべらナイト」(NHK)で一躍有名に。「世界番付」(日本テレビ)、「未来世紀ジパング」(テレビ東京)などにレギュラー出演。教育、情報番組などに出演中。2012年から東京工業大学非常勤講師に就任し「コミュニケーションと国際関係」を教えている。その講義をまとめた『ツカむ!話術』(角川新書)のほか、著書多数。近著に『パックン式 お金の育て方』(朝日新聞出版)。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

仏GDP、第1四半期は前期比+0.2%に加速 予想

ビジネス

日揮HD、24年3月期は一転最終赤字に 海外事業で

ビジネス

独VWの第1四半期、営業利益が20%減 年間目標は

ビジネス

米テスラ、上級幹部を削減 追加レイオフも実施=ニュ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる4択クイズ

  • 4

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 5

    メーガン妃の「限定いちごジャム」を贈られた「問題…

  • 6

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 7

    「瞬時に痛みが走った...」ヨガ中に猛毒ヘビに襲われ…

  • 8

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 9

    19世紀イタリア、全世界を巻き込んだ論争『エドガル…

  • 10

    ナワリヌイ暗殺は「プーチンの命令ではなかった」米…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 4

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 5

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 8

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 9

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 10

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 4

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 7

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 8

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    「誰かが嘘をついている」――米メディアは大谷翔平の…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story