コラム

保守的なジョージア社会の一面が明らかに『ダンサー そして私たちは踊った』

2020年02月20日(木)17時30分

ジョージア社会の知られざる一面があきらかに『ダンサー そして私たちは踊った』

<舞台となったジョージアでの公開時には、極右グループや反LGBT活動家が抗議。保守的なジョージア社会の知られざる一面が明らかにされる......>

スウェーデンの新鋭レヴァン・アキン監督が、自身のルーツでもあるジョージア(グルジア)で撮った『ダンサー そして私たちは踊った』では、ひとりの若者の恋とアイデンティティの目覚めが描き出されると同時に、ジョージア社会の知られざる一面が明らかにされる。

ジョージアの首都トビリシ。主人公の若者メラブは、国立舞踊団で幼なじみのマリとパートナーを組み、練習に打ち込んでいる。彼の家は貧しく、練習後はレストランでアルバイトをし、家計を支えている。そんなある日、メラブのライバルになるような才能豊かな青年イラクリが入団し、同時にメイン団員の欠員1名を補充するためのオーディションの開催が決まる。

メラブはイラクリとふたりだけの朝練を重ねるうちに彼に惹かれるようになり、ふたりはマリの実家で開かれたパーティのあとで、密かにお互いの想いを確かめ合う。だが、喜びもつかの間、社会の厳しい現実が立ちはだかり、メラブは孤立し、追い詰められていく。

ジョージア公開時、日本の外務省の海外安全ホームページで注意喚起

本作については、その内容に踏み込む前にいくつか確認しておきたいことがある。舞台となったジョージアでは、2019年11月8日から3日間にわたって行われたプレミア上映が大きな注目を集めた。日本の外務省の海外安全ホームページには、11月8日に「ジョージア映画に関する注意喚起」として以下のような文書が掲示された。


「本日8日(金)から10日(日)までの3日間、トビリシ及びバトゥミの映画館で上映予定のジョージア映画「And Then We Danced」をめぐり,極右グループや反LGBT活動家らが上映を実力で阻止する旨の声明を出しています。

本映画を鑑賞予定の方及び下記映画館(又は映画館が入るショッピングモール等)を訪れる予定のある方は,インターネットやテレビ等で関連情報の収集に努めていただくとともに,トラブルに巻き込まれることのないようご注意下さい」

このプレミア上映では、実際に数百人の極右の抗議者が会場前に集まり、観客が劇場に入るのを阻止しようとした。またジョージア正教会は、「ジョージアとキリスト教の価値を貶める」と上映中止を求める声明を発表した。さらに、本作の出発点になった事件についても確認しておくべきだろう。

プロフィール

大場正明

評論家。
1957年、神奈川県生まれ。中央大学法学部卒。「CDジャーナル」、「宝島」、「キネマ旬報」などに寄稿。「週刊朝日」の映画星取表を担当中。著書・編著書は『サバービアの憂鬱——アメリカン・ファミリーの光と影』(東京書籍)、『CineLesson15 アメリカ映画主義』(フィルムアート社)、『90年代アメリカ映画100』(芸術新聞社)など。趣味は登山、温泉・霊場巡り、写真。
ホームページ/ブログは、“crisscross”“楽土慢遊”“Into the Wild 2.0”

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

岸田首相、「グローバルサウスと連携」 外遊の成果強

ビジネス

アングル:閑古鳥鳴く香港の商店、観光客減と本土への

ビジネス

アングル:中国減速、高級大手は内製化 岐路に立つイ

ワールド

米、原発燃料で「脱ロシア依存」 国内生産体制整備へ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 2

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS攻撃「直撃の瞬間」映像をウクライナ側が公開

  • 3

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を受け、炎上・爆発するロシア軍T-90M戦車...映像を公開

  • 4

    こ、この顔は...コートニー・カーダシアンの息子、元…

  • 5

    テイラー・スウィフトの大胆「肌見せ」ドレス写真...…

  • 6

    外国人労働者がいないと経済が回らないのだが......…

  • 7

    ロシア軍「Mi8ヘリコプター」にウクライナ軍HIMARSが…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    サプリ常用は要注意、健康的な睡眠を助ける「就寝前…

  • 10

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 3

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる4択クイズ

  • 4

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 5

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 6

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 7

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 10

    メーガン妃の「限定いちごジャム」を贈られた「問題…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 6

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story