コラム

身長13センチになれば、この時代の生きづらさが解消する!? 映画『ダウンサイズ』

2018年02月27日(火)16時00分

マット・デイモンが13cmに! 映画『ダウンサイズ』(C) 2018 Paramount Pictures. All rights reserved.

<人口が増え続け、住みづらくなってしまった地球。科学の進化によって、人間を1/14に縮小する技術が発見された。小さくなることで見えた大きな幸せ...>

アレクサンダー・ペイン監督は、『アバウト・シュミット』(02)、『サイドウェイ』(04)、『ファミリー・ツリー』(11)、『ネブラスカ ふたつの心をつなぐ旅』(13)といった作品で、人生の危機に直面した男たちの行動や心理を、ユーモアを交えて巧みに描き出してきた。そんな作品に親しんできた人は、ペインの新作『ダウンサイズ』に戸惑いを覚えるかもしれない。この映画は、『マルコヴィッチの穴』(99)、『アダプテーション』(02)、『脳内ニューヨーク』(08)などの脚本や監督を手がけたチャーリー・カウフマンが作りそうな、シュールで奇想天外なSFコメディに見えるからだ。

人口や環境問題を解決するために人間を小さくする

その物語は、ノルウェーで科学者ヨルゲンがマウスを使ったある実験に成功するところから始まる。その5年後、自ら実験台となり、身長約13cmになったヨルゲン博士が学会の壇上に上がり、「ヒューマンスケールとサスティナビリティ」というテーマで画期的な技術を発表する。それは、人口や環境問題を解決するために人間を小さくする技術だった。すでに博士とともに36人の人間が壮大な実験に参加していて、彼らが4年間に出したゴミが、ポリ袋ひとつに収まってしまうことが明らかにされる。

さらにそれから10年後、いよいよ主人公のポールが登場する。ネブラスカ州オマハで妻と経済的に厳しい生活を送るポールは、同窓会で"ダウンサイズ"の人生を選択した友人と再会し、彼が暮らすコミュニティ「レジャーランド」の生活に魅了されていく。一度小さくなったら元には戻れないが、資産は82倍になり、とてつもない大豪邸で贅沢に暮らすことができるからだ。

ポールと妻は「レジャーランド」で暮らす決断をする。ところが、夢は一瞬にして崩れる。予告編からも察せられるように、妻が土壇場で怖気づき、ポールだけが13cmになってしまうのだ。それだけなら、ペインの他の作品にも通じる人生の危機といえないこともないが、この映画ではそんなポールが予想だにしない人生を歩むことになる。「レジャーランド」のドラマには、強烈なキャラクターたちが登場し、やがて彼はノルウェーのヨルゲン博士のもとに導かれていく。

個人を超えた大きな視野からとらえる

このような展開を見ると、ペインが突然、これまでの作品とはまったく違うひらめきを得て、新作を作ったように思われることだろう。実は彼がこの企画に着手したのは2006年のことで、当初は『サイドウェイ』につづいてポール・ジアマッティが主演する予定だった。だが、資金の調達が困難を極め、先送りされることになった。また、ペインは海外のインタビューで、この新作には、これまでの作品で扱ってきたテーマが集約されているとも語っている。

ペインの作品には以前から、主人公が置かれた状況をまったく異なる視点からとらえるような要素が盛り込まれていた。

プロフィール

大場正明

評論家。
1957年、神奈川県生まれ。中央大学法学部卒。「CDジャーナル」、「宝島」、「キネマ旬報」などに寄稿。「週刊朝日」の映画星取表を担当中。著書・編著書は『サバービアの憂鬱——アメリカン・ファミリーの光と影』(東京書籍)、『CineLesson15 アメリカ映画主義』(フィルムアート社)、『90年代アメリカ映画100』(芸術新聞社)など。趣味は登山、温泉・霊場巡り、写真。
ホームページ/ブログは、“crisscross”“楽土慢遊”“Into the Wild 2.0”

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

円が対ドルで5円上昇、介入観測 神田財務官「ノーコ

ビジネス

神田財務官、為替介入観測に「いまはノーコメント」

ワールド

北朝鮮が米国批判、ウクライナへの長距離ミサイル供与

ワールド

北朝鮮、宇宙偵察能力強化任務「予定通り遂行」と表明
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 3

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われた、史上初の「ドッグファイト」動画を米軍が公開

  • 4

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 5

    目の前の子の「お尻」に...! 真剣なバレエの練習中…

  • 6

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 7

    メーガン妃の「限定いちごジャム」を贈られた「問題…

  • 8

    19世紀イタリア、全世界を巻き込んだ論争『エドガル…

  • 9

    美女モデルの人魚姫風「貝殻ドレス」、お腹の部分に…

  • 10

    ロシア軍「Mi8ヘリコプター」にウクライナ軍HIMARSが…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 8

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 9

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 10

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 4

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 5

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story