コラム

アフリカに広がるクーデター・ドミノ──危機に無策の「独裁者」の末路

2021年09月16日(木)16時50分

mutsuji210916_map.jpg

そして、4月にはチャドで、1991年からこの国を支配してきた「独裁者」デビー大統領の死去にともない、デビーの息子マハマ・デビーが軍の支持で、議会の承認を経ないままに大統領に就任した。野党はこれを「憲法を無視した事実上のクーデター」と呼んでいる。 

ギニアの事例は、アフリカで昨年から4番目のクーデターなのである。

国民のためにならない経済成長

このようにアフリカではクーデターが連鎖しているのだが、国によって事情はそれぞれ異なる。ギニアに限っていえば、少なくとも国内でクーデターに好意的な声が目立つのが大きな特徴だ。

なぜ多くのギニア国民はクーデターを支持するのか。そこには国民生活を覆う不安や危機を打開することへの期待がある。

ギニアの昨年のGDP成長率は、アフリカ開発銀行によると5.2%だった。一昨年の5.6%からわずかに下がったが、コロナ禍に直面した世界にあっては、むしろ例外的に高い水準といえる。

ただし、それはほとんどの国民には無縁の好景気だった。景気を支えたのは、輸出額の約半分を占めるボーキサイトだった。ボーキサイトはアルミニウムの原料で、その世界最大の輸出国がギニアなのだ。

ところで、現代の資源採掘は高度に機械化されていて、あまり雇用を生まない。また、汚職の蔓延するアフリカでは、政府と海外企業の癒着によって利益が流出することも珍しくない。

実際、ボーキサイト生産がいくら好調でも、ギニア国民の約55%は貧困層のままだ。好景気にともなう物価上昇は、多くの国民にとって、ただ生活苦が増える以外の意味をもたない。

これに拍車をかけたのが、感染症の拡大だ。昨年来、コロナだけでなくエボラ出血熱(致死率はコロナよりはるかに高い)が蔓延し、ギニアでは物流や人流が滞っている。その結果、世界食糧計画によると、41万人以上が食糧不足に直面しており、これは全世帯の21%に相当する。

「民主派」の末路

社会・経済的な危機はただでさえ政府への批判や不満を高めるが、ギニアではこれが怒りに変わった。危機の最中でもコンデ大統領は自分の権力を維持することに頭がいっぱいだったからだ。

今回のクーデターで失脚したコンデは、もともと民主派として台頭した。1958年の独立以来、一党制や軍事政権によって統治されたギニアで、2010年に初めて行われた民主的選挙でコンデは当選したのだ。

プロフィール

六辻彰二

筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

英軍個人情報に不正アクセス、スナク氏「悪意ある人物

ワールド

プーチン大統領、通算5期目始動 西側との核協議に前

ワールド

ロシア裁判所、JPモルガンとコメルツ銀の資産差し押

ビジネス

UBS、クレディS買収以来初の四半期黒字 自社株買
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:岸田のホンネ
特集:岸田のホンネ
2024年5月14日号(5/ 8発売)

金正恩会談、台湾有事、円安・インフレの出口......岸田首相がニューズウィーク単独取材で語った「次の日本」

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国の研究チームが開発した「第3のダイヤモンド合成法」の意義とは?

  • 2

    「真の脅威」は中国の大きすぎる「その野心」

  • 3

    外国人労働者がいないと経済が回らないのだが...... 今も厳しい差別、雇用許可制20年目の韓国

  • 4

    翼が生えた「天使」のような形に、トゲだらけの体表.…

  • 5

    単独取材:岸田首相、本誌に語ったGDP「4位転落」日…

  • 6

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 7

    「ハイヒールが効率的な歩行に役立つ」という最新研究

  • 8

    こ、この顔は...コートニー・カーダシアンの息子、元…

  • 9

    メーガン妃を熱心に売り込むヘンリー王子の「マネー…

  • 10

    ウクライナがモスクワの空港で「放火」工作を実行す…

  • 1

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 2

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロシア空軍基地の被害規模

  • 3

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国の研究チームが開発した「第3のダイヤモンド合成法」の意義とは?

  • 4

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミ…

  • 5

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 6

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 7

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 8

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 9

    「500万ドルの最新鋭レーダー」を爆破...劇的瞬間を…

  • 10

    外国人労働者がいないと経済が回らないのだが......…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

  • 10

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story