コラム

なぜ11歳の男の子は斬首されたか──アフリカ南部に広がる「資源の呪い」

2021年03月19日(金)18時50分
カボ・デルガード州の避難キャンプ

イスラーム過激派の襲撃に遭い、避難キャンプに逃れてきた家族(2021年1月26日、カボ・デルガード州) Rui Mutemba/Save the Children/Handout via REUTERS


・アフリカ南部のモザンビークでは天然ガスの開発が進むにつれ、海外企業がこれまでになく投資を進めている

・その一方で、この国では従来ほとんどみられなかったイスラーム過激派の活動も、急速に活発化している

・一見無関係のこれらは深く結びついており、資源開発による利益が現地に恩恵をほとんどもたらさないことがテロの蔓延につながっている

日本ではすでに忘れられかけているようだが、イスラーム過激派はこれまで活動があまりみられなかった地域にまで進出しつつある。

「私たちは何もできなかった」

3月16日、国際人権団体セーブ・ザ・チルドレンはイスラーム過激派の活動が活発化するアフリカ南部モザンビークの最新情勢を報告し、11歳の男の子が首を刎ねられたケースすらあると発表した。

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セーブ・ザ・チルドレンの聞き取り調査に応じた28歳の母親によると、一家が住んでいたモザンビーク北部のカボ・デルガード州にある村がイスラーム過激派に襲撃された際、逃げ遅れた長男が捕まり、斬首されたという。他の子ども3人と隠れていた母親は「私たちは何もできなかった。だって、私たちも殺されるかも知れなかった」と述べている。

その後、母親は子どもを連れて実家のある別の村に移ったが、そこもまた襲撃された後、避難キャンプに収容された。

カボ・デルガード州ではイスラーム過激派の活動が急速に活発化しており、2月までに1312人の民間人を含む2614人が殺害された。それにともない、67万人以上が避難を余儀なくされている。この人数は1年前の7倍にあたる。

セーブ・ザ・チルドレンによると、避難キャンプに逃れられても、心的外傷後ストレス障害(PTSD)に悩まされる人は多いという。

イスラーム過激派と無縁だった国

モザンビークの人口の約20%はムスリムだが、これまでイスラーム過激派の活動はほとんどみられなかった。この国でテロが急増したのは2017年頃からで、ごく最近のことだ。

この地域で破壊や殺戮を繰り広げる勢力は、アル・シャバーブ(アラビア語で「アラブの若者」)と呼ばれる。同じ名前の組織は北東アフリカのソマリアにもあるが、モザンビークのそれとは系統が異なる。ソマリアの方がアル・カイダ系であるのに対して、モザンビークの方は逆にアル・カイダとライバル関係にある「イスラーム国(IS)」に忠誠を誓っている。

プロフィール

六辻彰二

筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売

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