コラム

「カリフォルニア大火災は左翼テロ」──陰謀論でトランプを後押しする極右

2020年10月05日(月)18時20分

山火事をみつめるロスアンゼルス群消防士(2020年9月19日) GENE BLEVINS-REUTERS


・アメリカでは、カリフォルニアなどでの過去最悪の山火事が極左集団アンティファの放火によるという噂がSNSなどで拡散している

・警察はこれを否定しており、噂は極右団体やロシアメディアを通じて拡散したとみられる

・大統領選挙の最中に広がるこの噂は、「黒人差別反対デモをアンティファが扇動している」と主張するトランプ陣営を後押しするといえる

トランプ大統領がコロナに感染して入院しているが、その一方では「アメリカ西海岸で広がる山火事は極左アンティファによる放火が原因」という噂も拡散しており、こちらも大統領選挙の行方を左右するものとみられる。

被害額200億ドル 過去最悪の山火事

カリフォルニア、オレゴン、ワシントンなどアメリカ西海岸に広がる山火事は、10月初めまでに162万ヘクタール以上を消失させながら、今も範囲を広げている。これは過去最悪のレベルで、9月末にはワイン産地として有名なナパバレーに火が迫るなど産業にも影響を及ぼしており、トータルの被害額は200億ドル以上にのぼるとも見積もられている。

コロナで世界最多の犠牲者を出すなか、泣きっつらにハチともいえるが、アメリカではSNS上で、この大火が「極左集団アンティファの放火によるもの」という噂が飛び交っている。

あらゆる差別に反対するアンティファは、トランプ政権にも批判的で、5月から全米で続く黒人差別反対の抗議デモ(BLM)にも参加してきた。トランプ政権はBLM参加者の一部が過激化したことをアンティファの扇動と断定し、「無政府主義者」「国内テロ」と呼んでいる。

そのアンティファが山火事を引き起こしたという噂に対して、オレゴン州ダグラス郡の保安官事務所は「'放火の疑いで6人のアンティファが逮捕された'という噂が広がり、確認しようとする連絡がたくさんあるが、全く正しくない情報だ」とのべ、誤った噂を拡散しないよう協力を求めた。

連邦捜査局(FBI)も同様に「アンティファ逮捕」を否定し、デマの拡散に注意を促している。

FBIを含むアメリカの捜査機関はこれまでしばしば「アンティファのテロ」を警告してきた。そのFBI自身が否定している以上、少なくとも現段階においてアンティファの関与を断定するのは誤報あるいはフェイクニュースと言わざるを得ない。

陰謀論を広める極右

アンティファを放火犯と断定する陰謀論は、主に白人至上主義的な極右集団が出元とみられている。

例えば、Facebookに開設されている極右メディア、ロー・エンフォースメント・トゥデイは根拠を示さないまま「放火は計画的に準備されたものだった」と主張し、この投稿には33万以上のコメントが寄せられた。

プロフィール

六辻彰二

筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売

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