コラム

G20大阪サミットの焦点・プラごみ規制――「日本主導の議論」の落とし穴

2019年06月28日(金)12時40分

そのため、海洋プラスチック憲章では「マイクロプラスチックのもとになる産業とともに取り組むこと」が謳われている他、プラスチックの代替品の使用を奨励することが掲げられている。

これに対して、環境省のプラスチック資源循環戦略では「2020年までにマイクロプラスチックの海洋への流出を抑制する」とあるものの、製造の削減には触れられていない。この違いは、日本で環境団体の発言力が欧米諸国ほど強くなく、政府が産業界の意向に傾きやすいことが大きい。環境省より経済産業省の方が発言力が強いこともあるだろう。

ともあれ、各国の自主性が重視されたG20関係閣僚会合では、数値目標だけでなく「何に優先的に取り組むか」の共通目標も設定されなかった。それは結果的に、各国がゴール設定をすることを意味する。

つまり、国際的な立場として「先進国の一国であること」を何より優先させたい日本政府にとって、共通のゴール設定が曖昧なG20の合意は、「仲間うち」のトレンドに合わせないことを正当化できるのである。

リサイクル問題の先送り

ただし、プラ製品の削減に消極的で、その裏返しでリサイクルを重視しながらも、日本政府は国内のリサイクルが抱える問題に手をつけようとしていない

日本のリサイクル技術は優れたものだが、これまでにも回収済みプラごみのうちリサイクルしきれないものが開発途上国に輸出されており、その量は年間150万トンにも及ぶ。

その最大の要因はコストにある。

現行の容器包装プラスチックのリサイクル制度は企業の負担が軽く、自治体の負担が重い。例えば、シャンプーやリンスのボトルでいうと、内容物の製造元と容器の製造元の負担は一本あたり2~4円だが、収集、分別、保管、廃棄などの自治体の負担はこの約5倍といわれる。

そのため、環境省のアンケートでは、容器包装プラスチックのリサイクル制度への不満として、64.7%の自治体が「市町村の収集・選別・廃棄にかかる費用負担を軽減すること」をあげている。

このコストの問題は自治体が中国などにプラごみを輸出する一因になってきたが、その最大の輸出先だった中国が門戸を閉ざした以上、少なくとも現行制度でのリサイクル重視には限界がある。

繰り返しになるが、G20で「日本が主導した」議論の着地点は、各国の自主的な取り組みを尊重するものだ。しかし、それは結果的に日本国内のリサイクル行政の問題を先送りさせかねない。日本政府は外向けに成果を誇る前に、足元を見直す必要があるだろう。

※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。

※筆者の記事はこちら

20190702issue_cover200.jpg
※7月2日号(6月25日発売)は「残念なリベラルの処方箋」特集。日本でもアメリカでも「リベラル」はなぜ存在感を失うのか? 政権担当能力を示しきれない野党が復活する方法は? リベラル衰退の元凶に迫る。

プロフィール

六辻彰二

筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米3月求人件数848.8万件、約3年ぶり低水準

ビジネス

米ISM製造業景気指数、4月は49.2に低下 価格

ビジネス

ファイザー、通年見通し上方修正 第1四半期予想上回

ワールド

米コロンビア大などで300人逮捕、ガザ反戦デモ激化
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロシア空軍基地の被害規模

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉起動

  • 4

    ポーランド政府の呼び出しをロシア大使が無視、ミサ…

  • 5

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 6

    米中逆転は遠のいた?──2021年にアメリカの76%に達し…

  • 7

    「レースのパンツ」が重大な感染症を引き起こす原因に

  • 8

    パレスチナ支持の学生運動を激化させた2つの要因

  • 9

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 10

    大卒でない人にはチャンスも与えられない...そんなア…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 4

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 5

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 6

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 7

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 8

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」…

  • 9

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 10

    今だからこそ観るべき? インバウンドで増えるK-POP…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 10

    「誰かが嘘をついている」――米メディアは大谷翔平の…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story