コラム

新宿案内人が14年も続けたコラムを休載する理由

2018年12月20日(木)20時55分

日本語学校を「正常化」する

ただ、日本人がどんどん増える外国人に不安を覚えるのも理解できる。30年前、私が日本に来たばかりのころは、中国人が何人か路上で集まっているだけで日本人が警察に通報した。さすがに今はそんなことはなくなったが、外国人にマンションの部屋を貸さないという不動産業者は新宿でもまだ多い。私自身、数年前にビジネスの必要から事務所を借りようとしたが、「中国杭州ECジャパン」と中国の地名が社名に入っているだけで断られた経験がある。

日本にやって来た外国人が日本人に受け入れられるためには、何より日本語を真面目に勉強する必要がある。新宿には東京の日本語学校の25%が集中している。新宿区の新成人の約半数は外国人だ。日本語教室は授業が午前中のみで、午後はアルバイトに精を出す留学生が多い。金持ちの子弟でその必要のない中国人留学生は遊び惚けるのだが、彼らはまず午前も午後もしっかり勉強して日本語を早く身に着けるべきだ。

でないと、規定の学習期間である2年を終えてもまともに日本語をしゃべれない元留学生がいつまで経っても減らないし、日本語をしゃべらないから同じ国の出身者同士ばかりでつるんで、時には犯罪行為に手を染めることになる。日本語学校の教育を立て直すことが外国人犯罪の防止につながる、と声を大にして言いたい。あと、日本に来た外国人に『選挙に出たい』を見せるといいかもしれない。外国人が日本で住むためには、マナーを守らないとダメということがよく分かる映画だからだ。

次に訴えたいのが、外国人の増加を日本人の仕事や儲けにつなげるコツだ。15年に204万人だった日本の長期滞在外国人の数が、18年には250万人にまで増えた。2020年の東京オリンピックに向かって、おそらくこれから右肩上がりで増えていくだろう。外国人が増えれば、確実に飲食業や関連する地元企業は儲かるようになる。人間は「食べること」からは逃れられないからだ。

歌舞伎町の中国火鍋の大型店「海底撈(ハイディーラオ)」がいい例だ。全200席という巨大店舗は東洋一の繁華街である歌舞伎町でもかなり目立つ。日本が中国資本と中国人観光客をもはや無視できない象徴的存在だが、この店は歌舞伎町商店街振興組合にもきちんと加盟している。外国人経営者と地元の日本人をつなぎ、彼らを「日本化」させることが、結局は外国人のためにも日本人のためにもなる。外国人と日本人のトラブルが減れば店の経営は安定して儲かり、地元にも利益が還元される。

歌舞伎町に最近、新しい大型クラブがオープンした。かつて歌舞伎町はディスコの「聖地」として盛り上がっていたが、その後ブームの終わりとともにすっかり下火になっていた。今回新しくできたこの大型クラブ、実は中国資本が入っている。中国資本が日本に入ることに拒否感をもつ日本人も多いが、「良質な中国資本」を見分ける能力があれば問題ない。それには中国人や中国企業を深く理解する「元・中国人、現・日本人」が必要だ(笑)。

プロフィール

李小牧(り・こまき)

新宿案内人
1960年、中国湖南省長沙市生まれ。バレエダンサー、文芸紙記者、貿易会社員などを経て、88年に私費留学生として来日。東京モード学園に通うかたわら新宿・歌舞伎町に魅せられ、「歌舞伎町案内人」として活動を始める。2002年、その体験をつづった『歌舞伎町案内人』(角川書店)がベストセラーとなり、以後、日中両国で著作活動を行う。2007年、故郷の味・湖南料理を提供するレストラン《湖南菜館》を歌舞伎町にオープン。2014年6月に日本への帰化を申請し、翌2015年2月、日本国籍を取得。同年4月の新宿区議会議員選挙に初出馬し、落選した。『歌舞伎町案内人365日』(朝日新聞出版)、『歌舞伎町案内人の恋』(河出書房新社)、『微博の衝撃』(共著、CCCメディアハウス)など著書多数。政界挑戦の経緯は、『元・中国人、日本で政治家をめざす』(CCCメディアハウス)にまとめた。

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