コラム

敗者・河野、勝者・岸田と自民党(と元老たち)の総裁選

2021年10月01日(金)06時00分

昨年の総裁選で大敗した菅首相から花束を受け取る岸田新総裁 REUTERS--Carl Court/Pool

<「人気者」河野太郎氏の思わぬ失速と岸田文雄氏の圧勝、高市早苗氏の躍進――国民政党・自民党の面目躍如となった党総裁選から見える岸田政権と日本政治の行く末>

9月29日、岸田文雄前政調会長が自民党新総裁に選出された。「1回目の投票では決着がつかず、決選投票で岸田氏が勝利する」という大方の予想に沿う結果だが、河野太郎氏の思わぬ失速が驚きを与えた。

党員・党友を対象とした事前調査で1番の人気を誇った河野氏は、1回目の投票で首位に立つと思われていた。しかし議員票を86票しか取れず、岸田氏と1票差とはいえ、まさかの2位に。決戦投票では「勝ち馬」と見なされた岸田氏が議員票249票を獲得、河野氏は地方票で31票上回ったものの、岸田氏が合計で87票の差をつけて圧勝した。

岸田氏勝利の背景として2つのポイントがあるだろう。一つは、13日間に渡る総裁選挙の期間中、「総選挙に勝てる新しい顔」を選ぶことが至上命題であるという議員間での逼迫感がだいぶ緩和されたことだ。

総裁選が始まった当初は、国民の間に蓄積されたコロナ対策への不満から、来たる総選挙で自民党が惨敗するのではないかという危機感が党内で共有されていた。この状態が続いていたら、石破茂元幹事長、小泉進次郎環境相が支持する河野氏に「選挙対策内閣としての顔」を期待する風が吹き、1回目の投票で河野氏勝利が決まっていたかもしれない。

しかし、菅首相が総裁選不出馬を表明した9月3日に1万6739人を数えた全国の新型コロナ感染確認者数は、9月29日には1986人まで減少。感染拡大の沈静化傾向は誰の目にも明らかで、緊急事態宣言がすべて解除されることも決まった。皮肉なことに退陣表明をしてからコロナ禍が収束する傾向が見えてきた菅首相だが、国民の間に一種のカタルシスをも与えたその電撃的な退陣劇によって自民党への「うねり」が戻りつつある。

他方で、高市早苗前総務相が「台風の目」になり、また野田聖子幹事長代行も出馬したことで、総裁選候補者の間で予想以上に活発な論戦が展開された。原発政策や年金問題をはじめとする政策論争が連日のようにメディアで報じられ、広く国民の関心を集めた。

プロフィール

北島 純

社会構想⼤学院⼤学教授
東京⼤学法学部卒業、九州大学大学院法務学府修了。駐日デンマーク大使館上席戦略担当官を経て、現在、経済社会システム総合研究所(IESS)客員研究主幹及び経営倫理実践研究センター(BERC)主任研究員を兼務。専門は政治過程論、コンプライアンス、情報戦略。最近の論考に「伝統文化の「盗用」と文化デューデリジェンス ―広告をはじめとする表現活動において「文化の盗用」非難が惹起される蓋然性を事前精査する基準定立の試み―」(社会構想研究第4巻1号、2022)等がある。
Twitter: @kitajimajun

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

中国主席「中米はパートナーであるべき」、米国務長官

ビジネス

中国、自動車下取りに補助金 需要喚起へ

ビジネス

円安、物価上昇通じて賃金に波及するリスクに警戒感=

ビジネス

ユーロ圏の銀行融資低迷、インフレ期待低下 利下げの
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された米女優、「過激衣装」写真での切り返しに称賛集まる

  • 3

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」──米国防総省

  • 4

    今だからこそ観るべき? インバウンドで増えるK-POP…

  • 5

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 6

    未婚中高年男性の死亡率は、既婚男性の2.8倍も高い

  • 7

    「鳥山明ワールド」は永遠に...世界を魅了した漫画家…

  • 8

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 9

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 10

    心を穏やかに保つ禅の教え 「世界が尊敬する日本人100…

  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 10

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 4

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 7

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこ…

  • 8

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 9

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 10

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story