コラム

日本が韓国の新型コロナウイルス対策から学べること──(2)マスク対策

2020年04月10日(金)15時13分

もうマスク調達に汲々としなくていい(ソウルの漢江沿いを走るカップル) Heo Ran-REUTERS

<韓国では、足りないマスクを中国に輸出していたことが発覚して「マスク大乱」が起きた。今も不足は解消されていないが、国民の不満は解消された。一体なぜなのか>

新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、マスクの品薄状態が続いている。日本では、1月に初めての感染者が確認されてからマスクの需要が急増し始めた。ドラックストアの前には毎日開店前から並んでも、早々に売り切れてしまう。そこで安倍首相は4月1日、マスク不足問題を解決する対策として「全世帯に布マスク2枚を配布する」と表明した。しかしながら、世間の反応は冷たく、より実効性のある対策が要求されている。

マスク不足は日本だけの問題ではない。新型コロナウイルスの感染が拡大すると、平素はマスクを着用しないアメリカやヨーロッパでもマスクを着用する人が増えはじめるなど、全世界的にマスクに対する需要は急増している。2月中旬に感染がピークであった韓国でもマスク不足が深刻であった。特に、医療現場のマスク不足が懸念された。韓国政府は1月30日時点で1日平均659万枚であった韓国国内のマスク生産量を増やすために2月12日に「緊急需給調整措置」を行った。その結果、マスクを生産する企業数は2月3日以前の123カ所から3月1日には140カ所まで増え、1日平均約1,000万枚のマスクが韓国国内で生産されることになった。しかし生産量が増えたにもかかわらず、マスクの品薄状態は続き、韓国は「マスク大乱」の危機に瀕した。需要が急増したこともその要因ではあるが、生産されたマスクの約90%が公式・非公式ルートにより中国に搬出されていたからである。韓国政府は、この大スキャンダルからいかにして立ち直ったのか。

全員が週に2枚、不正なし

マスクが買えないことに対する国民の不満が爆発寸前に至ると、韓国政府は2月26日から保健用マスクの輸出を制限したことに加え、3月6日からは保健用マスクの海外輸出を原則的に禁止する措置を実施した。さらに、3月9日からは国民1人あたりのマスク購入量を1週間に2枚まで制限した(平日5日のうちマスクを買える曜日が一人一人決まっているため「マスク5部制」と呼ばれる)。決まった曜日にマスクを買いに行くと、薬局は重複購入を防ぐために購入履歴をオンラインシステムに記録する。療養施設や病院の入院患者の場合は病院などの関係者が、高校生までは親が、代理でマスクを購買することも可能である。

韓国政府は個人のマスク購入制限を実現するために「住民登録番号」と「医薬品安全使用サービス(DUR)システム」を応用した療養期間業務ポータル「マスク重複購買確認システム」を活用した。

「住民登録番号」とは、朴正熙政権時代に北朝鮮からのスパイを選び出す目的で作られ、13桁の番号で構成される個人を識別するための番号である。出生の届けと同時に個人番号が与えられ、満17歳になると個人のIDカードとも言える「住民登録証」が発給される。韓国では運転免許証と同時に個人の身分を証明する際に使われる。今回もマスクを購入する際に、本人確認用として使われた。

プロフィール

金 明中

1970年韓国仁川生まれ。慶應義塾大学大学院経済学研究科前期・後期博士課程修了(博士、商学)。独立行政法人労働政策研究・研修機構アシスタント・フェロー、日本経済研究センター研究員を経て、2008年からニッセイ基礎研究所。日本女子大学現代女性キャリア研究所客員研究員、日本女子大学人間社会学部・大学院人間社会研究科非常勤講師を兼任。専門分野は労働経済学、社会保障論、日・韓社会政策比較分析。近著に『韓国における社会政策のあり方』(旬報社)がある

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

イスラエル軍、ラファ住民に避難促す 地上攻撃準備か

ビジネス

ユーロ圏総合PMI、4月も50超え1年ぶり高水準 

ビジネス

独サービスPMI、4月53.2に上昇 受注好調で6

ワールド

ロシア、軍事演習で戦術核兵器の使用練習へ 西側の挑
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    外国人労働者がいないと経済が回らないのだが...... 今も厳しい差別、雇用許可制20年目の韓国

  • 2

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 3

    翼が生えた「天使」のような形に、トゲだらけの体表...奇妙な姿の超希少カスザメを発見、100年ぶり研究再開

  • 4

    こ、この顔は...コートニー・カーダシアンの息子、元…

  • 5

    ウクライナがモスクワの空港で「放火」工作を実行す…

  • 6

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 7

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 8

    単独取材:岸田首相、本誌に語ったGDP「4位転落」日…

  • 9

    マフィアに狙われたオランダ王女が「スペイン極秘留…

  • 10

    テイラー・スウィフトの大胆「肌見せ」ドレス写真...…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる4択クイズ

  • 3

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 4

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 5

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 6

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 7

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 8

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 9

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 10

    メーガン妃の「限定いちごジャム」を贈られた「問題…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

  • 10

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story