コラム

GDPマイナス成長は暖冬のせいではない

2016年02月16日(火)19時44分

石原伸晃経済再生担当相の説明は統計と違う Yuya Shino-REUTERS

 2月15日に2015年10-12月期のGDP速報値が内閣府から公表された。結果をみると、実質GDP成長率は前の四半期と比べて0.4%減、年あたりの換算で1.4%減となり、2015年4-6月期以来のマイナス成長に沈んだ。もっとも、7-9月期の実質GDP成長率も昨年11月に公表された段階(一次速報値)ではマイナス成長であったから、日本経済は2015年4-6月期以降、ほぼゼロ近傍に近い成長率で推移していることがわかる。政府は2015年度の実質GDP成長率を1.2%と見込んでいるが、見通し通りの成長率の達成はほぼ絶望的な状況だ。これは安倍政権の政策運営にも少なからず影響を及ぼすだろう。

 さて、今回公表されたGDP速報値について、石原経済再生担当大臣は記録的な暖冬により冬物衣料品などが大きく落ち込んだことで個人消費の減少幅が大きくなったことが主因との見方を示したとのことだ。

 GDPは民間最終消費支出、民間住宅、民間企業設備、民間在庫品増加、政府最終消費支出、公的固定資本形成、公的在庫品増加、財・サービスの輸出と輸入という、9つの項目から構成される。個人消費は民間最終消費支出に含まれるが、年率換算で1.4%減となった実質GDP成長率が、どの項目によって生じているのかを確認すると、民間最終消費支出の落ち込みによる影響が最も大きくなっており、石原大臣の指摘する通り、個人消費を含む民間最終消費支出の落ち込みが主因であることが確認できる。

 しかし、個人消費の落ち込みが記録的な暖冬により冬物衣料品などが大きく落ち込んだことが主因であるとはデータからは確認できない。

天候不順は言い訳

 今回公表されたGDP統計では、家計消費の推移が自動車や家電製品といった耐久財、衣料品などの半耐久財、食品などの非耐久財、輸送・通信・介護・教育などを含むサービスといった4つの品目群(GDP統計では形態と言う)別にまとめられている。2015年7-9月期と比較しても、1年前の2014年10-12月期と比較しても、家計消費の落ち込みに最も大きく影響しているのは耐久財消費の落ち込みである。石原大臣の述べるとおり、家計消費の落ち込みの主因が冬物衣料品などが大きく落ち込んだことにあるのならば、その影響は半耐久財消費の大幅減という形で現れるはずだが、統計データを参照する限り、そうはなっていない。

【参考記事】アベノミクスが目を背ける日本の「賃金格差」

 思い起こせば、天候不順が消費低迷の主因であるという指摘は、2014年4月の消費税増税以降繰り返されてきた。確かに天候不順が消費を落ち込ませる可能性はゼロではない。しかし消費意欲が旺盛であれば、多少の天候不順でも、消費の落ち込みがこれほど長くかつ深刻な形で続くことはないだろう。GDP速報値の結果からは、2015年10-12月期の民間最終消費支出の値は304.5兆円だが、これは、消費税増税直後に大幅な落ち込みとなった2014年4-6月期の305.8兆円をも下回っているのである。これほどの大きな変動が天候不順で生じると考えられるのだろうか?

プロフィール

片岡剛士

三菱UFJリサーチ&コンサルティング、経済・社会政策部主任研究員
1972年生まれ。1996年慶應義塾大学卒業後、三和総合研究所入社。2001年慶應義塾大学大学院商学研究科修士課程修了、2005年より現職。早稲田大学経済学研究科非常勤講師、参議院第二特別調査室客員調査員、会計検査院特別研究職を兼務。専門は応用計量経済学、マクロ経済学、経済政策論。著作に『日本の「失われた20年」――デフレを超える経済政策に向けて』(藤原書店、第4回河上肇賞本賞受賞)、「日本経済はなぜ浮上しないのか アベノミクス第2ステージへの論点」(幻冬舎)など多数

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

神田財務官、介入有無コメントせず 過度な変動「看過

ワールド

タイ内閣改造、財務相に前証取会長 外相は辞任

ワールド

中国主席、仏・セルビア・ハンガリー訪問へ 5年ぶり

ビジネス

米エリオット、住友商事に数百億円規模の出資=BBG
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 3

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われた、史上初の「ドッグファイト」動画を米軍が公開

  • 4

    メーガン妃の「限定いちごジャム」を贈られた「問題…

  • 5

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 6

    目の前の子の「お尻」に...! 真剣なバレエの練習中…

  • 7

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 8

    19世紀イタリア、全世界を巻き込んだ論争『エドガル…

  • 9

    美女モデルの人魚姫風「貝殻ドレス」、お腹の部分に…

  • 10

    ロシア軍「Mi8ヘリコプター」にウクライナ軍HIMARSが…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 8

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 9

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 10

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 4

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 5

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story